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<title>The RLight=Bringer - 【2nd RLight】</title>
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<description>オリジナル長編SF小説【The RLight=Bringer】の【第二光】を掲載。</description>
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<title>はじめに</title>
<description>ここでは、光橋祐希原作のオンラインSF小説である【The RLight=Bringer -Let bring us the RLights】の【第二光】（第二部と考えて貰って差し障りありません）を掲載しております。量が量になってしまった為の避難的措置であるとご理解を得られれば助かります。現在、本編はこの【第二光】の方まで進んでおり、鋭意連載中です。【第一光】のまとめはこちらとなります。また、一括ダウンロードをご用意しましたので、持ち帰りを希望される方はまた、一括ダウンロードを...</description>
<dc:subject>はじめに</dc:subject>
<dc:creator>光橋祐希</dc:creator>
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ここでは、光橋祐希原作のオンラインSF小説である<br />【The RLight=Bringer -Let bring us the RLights】の<br />【第二光】（第二部と考えて貰って差し障りありません）を<br />掲載しております。<br /><br />量が量になってしまった為の避難的措置であるとご理解を<br />得られれば助かります。<br /><br />現在、本編はこの【第二光】の方まで進んでおり、鋭意連載中です。<br /><br />【第一光】のまとめは<a href="http://rlightbringer01.seesaa.net/" target="_blank">こちら</a><br />となります。<br /><br /><br />また、一括ダウンロードをご用意しましたので、持ち帰りを<br />希望される方はまた、一括ダウンロードをご用意しましたので、持ち帰りを<br />希望される方は<a href="http://rlightbringer01.seesaa.net/category/3135233-1.html" target="_blank">【こちら】</a>からお願いします。<br />（※一括ダウンロードの内容は全て同じものになっています）<br /><br />非常な長編小説となっておりますが、訪れて下さった方々が<br />少しでも楽しんで頂ければこれ以上の幸せはありません。<br /><br />また、このブログではコメント、トラックバックの類は<br />張れない仕様となっております。<br /><br />感想や、ご意見などがある方は、<br /><br />原作者・光橋の半ばの日記ブログである<a href="http://atelier-fortune.seesaa.net/" target="_blank">【みつろぐ！？（仮）】</a>のコメント欄、或いは<br />小説専用の掲示板<a href="http://www.freebbs.biz/patio/patio.cgi?user=athe2458" target="_blank">【Bourbon House @ETERNAL-2】</a>の方に寄せて頂ければと思います。<br /><br /><br /><br />小説RLに関する統合情報は以下のブログで行なっております。<br />連絡であるとか更新情報などは、以下で行なうことになるかと<br />思いますので、ブックマークはこちらを推奨します。<br /><br /><a href="http://rlightbringer.seesaa.net/" target="_blank">【FORTUNE C.I.C. -フォーチュン戦闘指揮所】</a> <br /><a name="more"></a>
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<title>第II光：『光臨』 第一章 驚天動地 - I</title>
<description>「ああ、全くもう――毎日疲れるわねぇ」 式典用と言う事で着用していたハイヒールを派手に脱ぎ散らかしながら、彼女はソファに大きく崩れ落ちた。マッサージ・サロンを兼ねたエステ・サロンに丸一日、篭もりたいところではあったが、生憎と状況がそれを許してくれない。「ふう」 いっそ、このまま眠ってしまおうか、と考えたが、明日からの上院議会は体力が勝負であるとも言える。ここで眠ってしまっては体力の回復もおぼつかない。「お飲物をお持ちしました――」 どうやら、重厚な扉に対してノックは行われてい...</description>
<dc:subject>第一章</dc:subject>
<dc:creator>光橋祐希</dc:creator>
<dc:date>2710-01-01T00:00:00+09:00</dc:date>
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<br />「ああ、全くもう――毎日疲れるわねぇ」<br />　式典用と言う事で着用していたハイヒールを派手に脱ぎ散らかしながら、彼女はソファに大きく崩れ落ちた。マッサージ・サロンを兼ねたエステ・サロンに丸一日、篭もりたいところではあったが、生憎と状況がそれを許してくれない。<br />「ふう」<br />　いっそ、このまま眠ってしまおうか、と考えたが、明日からの上院議会は体力が勝負であるとも言える。ここで眠ってしまっては体力の回復もおぼつかない。<br />「お飲物をお持ちしました――」<br />　どうやら、重厚な扉に対してノックは行われていたらしい。全く気付かなかったが、まあ、いつものことであるとも言える。現に、そんな主人の生活態度に馴れきっているメイドは当たり前のようにそのテーブルに各種飲料を並べてくれていた。<br />「今日はお酒は要らないわ――冷えた紅茶だけ、置いといてくれる？　マリベル？」<br />　ソファに寝っ転がったまま、その左手を物ぐさに振りながら、マリベルと呼ばれたメイドに注文を行う。<br />「――お食事は本当に要らないのですか？」<br />　頷きながら、マリベルと呼ばれたメイドが尋ねてくる。<br />「ありがとう。でも、軽く摘んできたから――」<br />「どうか、お体ご自愛下さい」<br />　物憂げな表情を一瞬だけその白皙に乗せて、マリベルは退室していった。<br /><br />　――体を自愛ねぇ<br /><br />　全く――この役職に就いてから、全く全く禄なことがない。友達と会える回数は明らかに激減したし、婚約者にも逃げられた。まあ、婚約者に関してはこの程度で逃げ出す男であることが分かって、寧ろ助かった位だけど！<br /><br />　ああ、でも。<br /><br />　一日、六時間は睡眠を摂りたい。心無しか、ここ数日は肌の張りが悪くなったような気がする。アイシャドーを引いていないはずなのに、どうも目元に陰が深まったようにも感じられる。いやーん。<br /><br />　このまま、オバアサンになっていってしまうのだけは勘弁して欲しいなぁ。<br /><br />　そんな彼女が寝転がったまま、卓上のポットを手に取ったその時だった。<br /><br /><br />　マリベルが、ノックも行わず、転がるように室内へ飛び込んできた。<br /><br />「ノックはしてよ、マリベル――」<br /><br />　悪態を吐いた彼女だったが、その常は沈着冷静なスーパーメイド、マリベルが動揺を極めているのが手に取って見えた為、それ以上は続けなかった。<br /><br /><br />「だだだだだだだだだだだだだ」<br /><br />「落ち着きなさい、マリベル。何があったの？」<br /><br />　彼女がその片手に通信端末を持っていることを、ようやく彼女は知ることができた。<br /><br /><br />「大統領閣下！！　緊急事態ですぅぅぅぅぅッ！！！！！！」<br /><br /><br /><br />　　　　・<br />　　　　・<br />　　　　・<br /><br />　話はこれより、一時間ほど遡る。<br /><br /><br /><br />　とある小型宇宙艇の内部での物語。その船殻には、『エテルナ航宙警察』と、文字が刻まれている。<br />「なあ…どうだ……そろそろ、僕ら――身を固めないか？」<br />　操縦席にて操縦桿を握っている男性警官が、隣の副操縦席で計器のチェックを続けていた女性警官に対して口を開いた。<br />「ああ……ジャン、その言葉を待っていたのよ…」<br />　プロポーズを受けたその女性は、目元を潤ませながら、深く頷いた。<br />「キャシー…僕のために味噌汁を作ってくれ」<br />　ジャンと呼ばれた男性が、艇の航行をオートに設定しつつ、キャシーの手を柔らかく握り込む。<br />「うわあ、それはベタでちょっと幻滅」<br />　わざとらしく『引いて』見せるキャシー。<br />「からかわないでくれ。僕ぁマジなんだ」<br />「分かっているわよ、ジャン――ちょっと意地悪してみたくなった、だ・け・よ♪」<br />　暫し、見つめ合う二人。<br /><br />　やがて、そんな影が重なり、熱いキスへと移行する。<br /><br />　――全く、彼ったらグズなんだから<br /><br />　キャサリン・エッシェンバッハは、恋人と熱いキスを交わしている最中、そんな事を考えていた。全く、いつになったら申し出て貰えるのか、こちらは気が気じゃなかったのよ。<br /><br />　長い口付けを終え、ジャンことジャン・サオトメはキャサリンの肩を引き寄せつつ、彼等の目の前に広がっている【ネビュラ・リーヌ】を指差した。<br /><br />「ご覧、リーヌも静かに僕達の未来を祝福してくれているよ――」<br />「ああ、ジャン――あなたと出会うことが出来て良かった………って――え」<br /><br />　キャサリンがその身を硬直させた。そんな恋人の動作に困惑し、ジャンはゆっくりとその視線の先に自身の目を向けた。<br /><br />　朧な光の渦の表面が波立っているように見えた。<br /><br />「――何ッ！？」<br /><br />　本来の職種に自分自身の精神を引き戻したサオトメ巡査長は、慌てて自機の端末を操作した。<br />「――おかしい。船が出てくる予定なんて、登録されていないぞ？？」<br />　これはリーヌ離脱を船舶が試みている前兆現象であることに疑いの余地はない。パトロール艇に備えられている簡易重力波レーダーを巡査長は起動させる。内部深淵までの走査は不可能だが、その表面上で起こっている現象程度であれば充分に調査は可能であった。<br />「質量――んがっ！？」<br />　これから飛び出してくる物体の全長９００ｍ弱、とパトロール艇の主端末は判断を下していた。<br />「こっちでも確認したわ。確かに変よ――ッッッキャアアアアアア！？」<br />　冷静に続いたエッシェンバッハ巡査部長だったが、その次の瞬間には盛大な絶叫を上げることとなってしまった。<br /><br /><br />　リーヌの表面が細かく泡立った、と彼等二人が揃って認識したその時、そんな対象が一斉にその姿を現したのである。<br />「は、早いよっ――速度、計測不能――？」<br />　巡査部長が言葉を抜く暇もなく、そんな対象はあっと言う間に、パトロール艇の至近にまで到達し、『不自然な』減速を開始。<br />「なななんだよ、これぇ――」<br />　鼻水を大きく垂らしながら、ジャン・サオトメ巡査長は上司の左肩に縋り付いた。有り得ない――自分達の艇はリーヌ突入面から、かなりの距離が離れていた筈であるのに、一瞬でこの位置にまで飛来して。なおかつ、不気味なほどに急激な減速を行っている。ここに至って、ようやくそんな対象が『船舶』であることを二人の乗員は知ることができた。<br /><br />　――９００メートルに近い船舶だなんて！？<br /><br />「本部、本部！！　聞こえますか、こちら巡視艇１０５７番！」<br />　頼りのない部下をその右手で押しのけながら、幾分冷静な巡査部長が情報通信衛星【カハヤ】に設置されている本部へと連絡を入れた。<br />「本部、認識されていますよね、これはなんなんです――ッ！？」<br />　半ばヒステリーの状態に陥っている上司兼恋人のそんな姿を客観的に見ることで、サオトメ巡査長は自分自身を少しだけ取り戻し――そんな折り、通信端末の一つが着信のある旨を主張してきている事に気付いた。上司の許可を得ようかと考えたが、そんな彼女は本部との通信を行っている最中であった。やむなく、サオトメは自ら通信を開くことにした。本部からの通信コードではなく、送信者はUNKNOWN。恐らく、彼等の前方に突然出現した件の船からの通信であろう。一抹の不安はあったが、巡視艇に於いては通信の無制限受信は規則でもある。サオトメはインカムを確かめながら、そのスイッチを親指で跳ね上げた。<br />「こちら、エテルナ航宙警察、カハヤ署所属、巡視艇１０５７番。ジャン・サオトメ巡査長である。オーヴァ？」<br />　ガリガリ、と言う音しか返ってこない。だが、サオトメがその表情をいよいよ顰（ひそ）め始めた時。<br /><br />『こちら、元太陽系惑星連合所属、強襲巡洋艦【フォーチュン】よりの通信である。貴国の代表者と話がしたい。こちら、元太陽系惑星連合宇宙軍所属、クリストファ・アレン元大佐！　オーヴァ――』<br /><br />　サオトメは首を大きく捻った。なんだ、この通信は。上司であるエッシェンバッハ巡査部長に目を向けるが、未だに彼女は本部との通信の真っ最中であった。<br />「こちら、サオトメ巡査長――申し訳ないが、貴船の通信内容の意味を理解できない――今一度、説明を要請する――オーバ」<br />　一体、何が『元』だってんだ。やたらと繰り返されたそんな『元』だが、何を相手が言いたいのか、全く理解できない。しかも、巡洋艦と言ったか？　それは戦闘艦艇と言うことだろうか。馬鹿馬鹿しい。リーヌを抜けて軍艦が来るだなんて話、聞いたこともない。もしや、同僚のドッキリなのではないか、とすら思えてくるサオトメだった。更に『貴国の代表者』と来たものだ。大統領までも巻き込むつもりなのか。それはギャグの範疇を逸脱するぜ――サオトメは一人、苦笑した。恐らく、こちらのデータを弄くりでもして、自分達をからかおうとしている奴等がいるんだろう。自分とキャシーの交際を冷やかしている同僚の心当たりは充分過ぎるほどにある。<br /><br />『本艦は太陽系惑星連合宇宙軍にて、貴国を侵略するために建造された最新鋭の戦闘艦である。だが、我々はそんな戦闘艦を奪取、逃亡を図って今へと至っている。これは、断じて演劇などではない！！　信用をして貰えないのであれば、本艦をこのまま直進させ、エテルナ本星へと向けるまでである。サオトメ巡査長、それで宜しいのだな！？』<br /><br />　語尾のオーバーも糞もない。どうやら、元軍人とうそぶくクリストファ・アレン氏はいよいよ、本気になってきたらしい。まあ、こんな見え透いた演技ではこのサオトメさんを騙すことはできない。巡査長は殊更に声を高めながら。<br />「――演技力に欠けているな。それじゃあブロードウェイは飾れないぜ、アレンさんとやら。オーヴァ」<br />『――了解した。信用を頂けなかった、と判断をさせて頂く』<br />「ああ、好きにしな。大体が、そんな図体でエテルナに突っ込めるかってゆーの」<br />『ご心配いただき、感謝する。貴殿と話す必要はこれ以上は無い。さよなら、サオトメ巡査長』<br />「それ以上ふざけると、公務執行妨害でしょっ引くぞぅ」<br />　だが、返信は返ってこない。<br />「おい、聞いているのか、アレンさんとやら！」<br />　返信は返ってこない。<br /><br /><br />　そして。そんなサオトメの目の前から、件の宇宙船は文字通り、消え去った。<br /><br />「はーっ、良くやるモンだ――」<br /><br />　サオトメは心から、自分の愛機のプログラムその他を見事に弄くり回した同僚達の腕に感心した。メインディスプレイへの干渉なんてどうすれば果たせるのか、皆目見当も付かなかった。<br /><br />　だが、そんな感嘆を長く続けることは出来なかった。恋人であるはずの巡査部長から鉄拳が飛んできて、彼の左頬に炸裂した為である。<br />「――な、何するんですか、巡査ぶちょおおおおおおおおおおおおおっ！！」<br />　頬を抑え、涙すら浮かべながらサオトメは盛大に抗議した。<br />　<br />「この――この――大バカ野郎！！」<br />　<br />　恋人の抗議には全く応じることなく、エッシェンバッハ巡査部長は操縦席の通信機の主権を自分の側に移す作業を行った。シート脇に放り込んでおいたインカムの付属したベレー帽を掴み上げて、叫ぶ。<br /><br />「待って下さい！　部下の非礼をお詫びします！！　こちら、巡視艇１０７５号艇！！　キャサリン・エッシェンバッハ巡査部長！！　応答願います！！」<br /><br />　返答が返ってこない。<br /><br />　今一度、巡査部長が恋人兼部下に鉄拳を振るい掛けたその時。<br /><br />『こちら、クリストファ・アレン。貴殿は先のサオトメ巡査長の上司で有ると言うことか』<br />「如何にも！！　部下の非礼は後程、如何様にでもお詫びさせていただきます！　今一度のお話しを！！」<br />『了解した。本船は機関を停止する』<br />「感謝する――え、ええと――貴船の名前は？」<br />『FORTUNEと言う。以降はその名前でコールをしてくれると助かる』<br /><br /><br />　　　◆　◆　◆<br /><br /><br />『お待たせをした。カハヤ署、第一級署長のキョウジ・ヤザワ警視と申します』<br />　フォーチュンの正面ディスプレイに、そんなヤザワ警視の上半身が表示された。同時に、クリストファ・アレンとヒムラ・キリオの映像も向こうに送信されている筈である。クリスとキリオは敬礼は行わず、その頭を揃って下げた。<br />「初めまして、ヤザワ警視。小官は元太陽系惑星連合宇宙軍所属、クリストファ・アレン元大佐であります」<br />『先立っての部下達の失礼な行動をお詫びさせていただきます、元……で宜しいのですかな――大佐殿？』<br />　こちらからは確認できないが、そんなヤザワの手元には多くの資料が並べられているのだろう。画面の中で一瞬、その視線を落とすのをクリスの目は捉えた。<br /><br />「如何様にもお呼び下さって結構です。何せ、私は今や無官の身でありますから」<br /><br />　顎に手を当て、微苦笑を浮かべているクリストファはフォーチュン内に於いて制作された特殊な軍服を身に纏っている。ベージュが基調となり、その節々に文字が刻まれている。胸元、左腕、そして背中にはミランダとマノアが共同でデザインに当たったフォーチュンのシンボルマークこと『ハイランドの妖精』が強調されており、更にクリストファは特権的にそのノーズ・アート――やはりミランダによって描き起こされたもの――を右腕に飾っている。キリオも原則的にはクリスと同様のフォーチュン制服に身を包んでいる。馴れない軍帽をやや窮屈そうにしつつ、彼の右腕には『鑿（のみ）と木槌』をあしらった図柄がプリントされている。これは、リンダ・フュッセルを除いたアルファの全員に等しく与えられているものでもある。<br /><br />『宮仕えから解放されたとは羨ましいお話しですな――』<br />　そう言って、ヤザワは声を立てて笑ったものだった。<br />「なかなか楽なものです。お薦めしますよ、警視」<br />　半ばの社交辞令として、クリスはそんな言葉を返す。<br />『夢としては持ち続けておきましょう――さて』<br />　ヤザワ警視がその襟を正してきた。クリスとキリオも等しく、その背中を伸ばした。<br />『――簡単なお話は伺いました。先刻、大統領府には私の名前で連絡を入れさせていただきました』<br />　クリスは素直に頷いた。<br />「迅速な行動に感謝します――ヤザワ警視」<br />『いや、なんのなんの。こちらがしでかした非礼な行動の数々に比べれば――誠に、申し訳ない――該当の巡査長に関しては厳重注意を与えておきます故――』<br />　卓上に手を突いて謝罪を行ってくる警視だったが、これはなかなか太陽系ではお目に掛かれないことだ。公的機関のトップに位置する人間がこうも簡潔に非を認めるとは。<br />「確か、サオトメ巡査長でしたか――いや、あまり責めないでやって下さい。気にしていませんから」<br />　クリスの言葉に、隣のキリオが「うんうん」と相槌を打った。<br />『お心遣い、ありがとうございます。まあ、減棒一ヶ月程度には留めておきましょう――』<br />　言いながら、ヤザワが卓上を探る動作を行った。いよいよ、本題に入る腹積もりなのだろう。<br />『幾つか確認をしておきたい点があるのですが宜しいですか？』<br />　ヤザワは身長に言葉を選びながら言ってきている。<br />「無論です。お答えできることであれば、のお話しですが」<br />　<br />『まず最初に、貴船――いや、貴艦とお呼びするべきか――には全部で何名の方々が乗り込まれているのでしょうか？』<br />　ゆっくりと丁寧に、ヤザワが質問を行ってきた。<br />「６２名です。いや、リーヌ航行中に６３名になりました」<br />　これは意識して、クリスは答えた。半ば用意していた回答だ。<br />『――？　６３名に、なった？』<br />　ペンを片手に持ったヤザワがその太い首を大きく傾ける。<br />「ええ。リーヌの中で誕生した赤ん坊が一人、おります故」<br />　淡々としたクリスのその言葉を受け、ヤザワ警視の巨体が目に見えて大きく揺らいだ。<br />『――なんですと？？　あ、赤ん坊？？』<br />「はい」<br />　クリストファの回答は素っ気がない。<br />『さ、左様ですか――何と申せばいいのか――めでたいことではありますね』<br />「ええ。めでたいことです」<br />『――ごほん。ええと、６３名の内訳と申しますか、正規軍人の方は何名いらっしゃるのでしょうか？』<br />　気を取り直したヤザワが眼鏡の位置を正しながら尋ねてくる。<br />「正規軍人は一人も居ません」<br />　ほとんど即答でクリス。<br />『失礼――これは質問がまずかったですね――ええと、元軍属の方々はどれ位いらっしゃるのでしょうか？』<br />　クリスは小首を傾げながら、指でカウントを取った。<br />「――７名、かな」<br />　ヤザワ警視はやはり、目に見えてたじろいだ。<br />『は――なななな、７名ですと？』<br />　不安になったクリスは再度、指折り数えた。今度は胸の前で。自分、ソフィ、フローラ、スコット、リオン、ライル、チャーリィ――<br />「ええ、やはり７名で間違いありません」<br />『す、すすすると、他の方々は如何なる――その――』<br />　どうやらヤザワには理解不能な現実であるらしい。もっとも彼に限ったことでは断じて無いだろうけれど。<br />「They're all Civilian（彼等はなべて民間人です）、ヤザワ警視」<br />　クリスはやはり即答。<br />『民間人！？』<br />「はい。この船の建造に従事した、ラリー・インダストリーの元社員達です。このヒムラ・キリオもまた、そこの所属でした。現在、本船の副司令官としての位置付けにおります」<br />　キリオを右手で示しながら、クリスは説明を行った。<br />「初めまして、ヤザワ警視。紹介に預かったヒムラ・キリオです。私を含め、５６名は確かに軍属ではありませんでした」<br />『ラリー・インダストリー…ですか。そのご高名は存じておりますが――あ、えっとこちらこそ初めまして、ミスター』<br />　ヤザワは通信の向こう側で大きく肩を落としたように思えた。その体はどうも、最初の印象より小さく見える。<br />『――副司令、と仰いましたね？　すると、アレン殿は』<br />「私は、司令官と言う位置付けに置かせていただいております」<br />『司令官――ですか。軍隊用語に私は精通していないのですが、それは艦長職と同義なのでしょうか』<br />「いいえ。艦長は別におります。紹介しましょう――」<br />　クリスが二言三言の指示を行い、カメラがズーム・アウト。<br />「フォーチュン艦長、ソフィ・ムラサメです。お見知り置きを」<br />『宜しくお願いします――そうですか、女性が艦長を――』<br />　卒無く、艦橋の構成員を眺め渡したヤザワであった。どの人物も大変に若いように思えてならなかった。<br />「そう言うわけです」<br /><br /><br />　　　◆　◆　◆<br /><br />「クリストファ・アレン――ですって？」<br />　秘書官からの報告を受けた大統領が、尋ね返す。<br />「はい。なんでも太陽系惑星連合宇宙軍所属の元軍人であったそうです」<br />　直立不動の状態で答える男性秘書官であった。<br />「事実なの？」<br />「はい。データ・ベースを検索したところ、該当の人物が確かに存在しました。登録されていた顔写真とも一致している、とカハヤ署のヤザワ警視から報告が上がっております」<br />　大統領は運ばれてきたばかりの紅茶を一口だけ、含んだ。<br />「クリストファ・アレン――その資料はこちらで出せる？」<br />「はい。直ぐに部下が資料を持ってくる手筈になっております」<br />　壁に掛けられた古時計を一瞥しながら答える秘書官。その部下がファイリングを行っている最中だろう、と言う推察は大統領にも行える。<br />「ありがとう――ううん」<br />「どうかなさったのですか？　大統領？？」<br />　語尾を濁らせた大統領の言動に対し、秘書官は速やかに応じた。<br />「Chricetopher=Allen――これって、昔の友人の名前と同じなのよ」<br />　再度カップを持ち上げながら、大統領。<br />「そうですか――しかし、ありふれた名前ではありますね」<br />「そうでしょうよ。でも、嫌な偶然だわ」<br />「大統領の知っているクリストファ・アレンとはどのような人物だったのです？」<br />　自分の部下が資料をまとめて戻ってくるまでの私語であれば問題が無い、と判断した秘書は質問を掘り下げた。<br />「ミドル・スクール時代に地球に戻って行った子よ。クラスメートであり、大変な美男子だった」<br />「地球に、ですか――それは珍しい話ですね」<br />「そうよ。今でも忘れられない。ちょっとだけ、好きだったかも知れないわね、私」<br />　それはそれは――と、苦笑いを浮かべながら小さく呟いた男性秘書官であった。<br /><br />　そんな内に、彼の部下である女性職員がファイルを抱えて入室を行ってくる。<br />「お待たせしました、チャン秘書官」<br />「ご苦労――大統領に直接、お渡ししてくれ」<br />　その左手を大統領に向けながら答える秘書官であった。<br />　<br />「ありがとう」<br />　礼を述べながら、大統領は手渡されたファイルを無造作に開いた。次の瞬間、目が点になる。<br />「フレデリック！！　クリストファ・アレンはこの人で間違いないのですかっ！？」<br />　次席秘書官、フレデリック・チャンと女性職員は突然の大統領の絶叫にその体を大いに硬直させた。<br />「間違い、ありません――データ・ベースの不具合は検出されておりませんし、それに何より――その写真はつい先程、カハヤ署から送られてきた映像をプリントしたものであり――」<br /><br />　大統領はフレデリックの言葉が終わるのを悠長に待ちはしない。<br />「カハヤに命じて、録画している現在の会談のデータを即時、転送させなさい！　前倒しで、私自ら確認します！」<br /><br />「未だ、情報局がプロファイリングを行っている最中ですが――」<br />　不可能と悟りつつ、抵抗を試みるフレデリック。<br /><br />「大統領、ジャニス・ハッシュポピー・シュバリエの名前で命令します！　急ぎなさいッ！！」<br />いよいよ大統領はバンッ、と卓を大きく叩き付けた。<br />「わ、わかりましたっ――」<br />　仰け反ったフレデリックは女性職員と共に、這々（ほうほう）の体（てい）で退室していった。<br /><br />「まさか、まさか――そんなことが――」<br />　エテルナ共和自由国大統領、ジャニス・ハッシュポピー・シュバリエは引き出しの中から一つの額縁を取り出した。<br />　その集合写真の中では十五才だった自分を含め、テリー・ロイスと肩を組んだクリストファ・アレン少年がバレーボールを片手に、にこやかな笑顔を向けてきていた。<br /><br /><br />　有り得ない。<br /><br /><br />　彼は。<br /><br /><a name="more"></a>
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<title>第II光：『光臨』 第一章 驚天動地 - II</title>
<description> 一連の説明を三十分余りも行い、ヤザワ警視から一時休憩の提案があってから小一時間が経過した。未だ、先方からのコールは無い。休憩とは名ばかりのものであり、先方として、充分な考察を行う時間が欲しかった為の建前であることは明白だ。恐らく今頃はありとあらゆるデータを専門の機関がクリーニングを行っている状態だろう、とクリスは推測していた。「先方はどうも――太陽系側から我々の情報を受け取っている、と言う事は無さそうだな？」 軍帽で自分の顔を扇ぎながらキリオ。「ああ。そんな感じだったね――...</description>
<dc:subject>第一章</dc:subject>
<dc:creator>光橋祐希</dc:creator>
<dc:date>2709-01-01T00:00:00+09:00</dc:date>
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<br />　一連の説明を三十分余りも行い、ヤザワ警視から一時休憩の提案があってから小一時間が経過した。未だ、先方からのコールは無い。休憩とは名ばかりのものであり、先方として、充分な考察を行う時間が欲しかった為の建前であることは明白だ。恐らく今頃はありとあらゆるデータを専門の機関がクリーニングを行っている状態だろう、とクリスは推測していた。<br />「先方はどうも――太陽系側から我々の情報を受け取っている、と言う事は無さそうだな？」<br />　軍帽で自分の顔を扇ぎながらキリオ。<br />「ああ。そんな感じだったね――ヘイスティングめ、何を考えているのやら――」<br />　リーヌの中で幾度と無く、この件に関しての議論を交わしてきていた彼等であった。クリスの今後予想の中には、自分達がエテルナに到達する前に、太陽系側が自分達を重犯罪人と指定して、エテルナ政府に身柄の拘束要求なりを密かに打診する、と言うものがあった。カハヤの能力をもってすれば、フォーチュンの到着よりも早く、エテルナ側に通信を行うことが出来るのだから。<br />「でもまあ、どんな思惑にせよ、楽と言えば楽なんじゃ？」<br />　キリオが軍帽を戻しながら言ってくる。<br />「――そうとも言えないよ。向こうは平静を装っているだけ、と言う可能性もあるし」<br />　こちらは少しだけ苦い表情を作りながら、クリストファ。<br />「そっか――そりゃそうだ」<br />「まず疑って掛かる、と言うのは好ましいところではないけど……これも、仕方無しさ」<br />　そんなクリストファの表情は大変に暗いものであった。<br /><br /><br />　　　◆　◆　◆<br /><br />　結局、ヤザワ警視から再度のコールがあったのは一時間半後の事であった。<br /><br />『クリストファ・アレン司令、大統領が自らお話しを伺いたい、との事ですが宜しいでしょうか？』<br />　自身も又、状況にその精神が追い付いていないのであろう。ヤザワはその表情の中に強い困惑の色をも含んでいた。<br />「はい。喜んで――ちなみに、こちらの資料では貴国の大統領はモンド・アバーレスク氏となっておりますが、間違いはないでしょうか？」<br />　クリスのこの発言はフォーチュンの中にある最新情報に依るものだ。もっとも最新とは言え、一年程も前の情報ではある。無論、エテルナの情報が太陽系に伝わるのに少なくとも数ヶ月を要する、と言う特殊状況がその根底にあるからだ。<br />　だが、こんなクリスの言葉に対し、ヤザワはその表情を幾分、改めた。<br />『――えー、実は先月、件の大統領は罷免されており、現在は新しい大統領になっております――ジャニス・ハッシュポピー・シュバリエと言う女性の大統領です』<br />「変わったお名前ですね――シュバリエとは、しかし？」<br />　敢えて『罷免』には触れず、クリストファ。<br />『はい。国民の支持率が９０％を越えた場合、『シュバリエ』姓を名乗る事を許される風習が本国にはございまして――』<br />「なるほど、大シモーヌ・シュバリエに肖（あやか）って、と言うことですね」<br />『はい、左様です。では、そろそろお繋ぎして宜しいでしょうか？』<br />　クリスの口から彼等が敬愛して止まないシモーヌ・シュバリエの名前が出たことに歓びを示しながらヤザワが答える。<br />「宜しくお願いいたします」<br />　クリスは深く、一礼を行った。<br /><br />　　　　・<br />　　　　・<br />　　　　・<br /><br />　お繋げします、とフレデリックが述べてくるのに対し、大統領は小さく頷いた。場所は大統領官邸、特殊通信室。その背後に数名のブレーンが待機を行っており、国防委員長のアーサー・ラウンドが大統領の背後に構える。まさか、こんな仕事が発生することになるとは一顧だにしていない国防委員長であり、その背筋には滝の様な汗を掻いてしまっている。着任早々、とんだ貧乏クジを引いてしまった――とさえ。<br /><br />　メイン・ディスプレイに映像がゆっくりと映し出された。自分の不幸な身の上は取り敢えず忘れ、国防委員長はその背筋を正す。<br />「こちら、エテルナ共和自由国８７代大統領、ジャニス・ハッシュポピー・シュバリエです――」<br />　画面の人物は、敬礼を行ってきた。なお、大統領の気付くところではなかったが、これは宇宙軍式の最敬礼であった。<br />『ご丁寧な挨拶、痛み入ります。強襲巡洋艦フォーチュン総司令官、クリストファ・アレンと申します。お目に掛かれて光栄です、大統領閣下』<br />　その内に様々な感情が溢れ掛ける。ジャニス・シュバリエはその精神を平静に保つのに尋常でない労苦を背負わねばならなかった。<br />「堅苦しいお話しは後程致しましょう。ざっとの経緯はヤザワ警視からお聞きしました。あなた方の行動に対して、心からの敬意を表させていただきたく思います――アレン司令」<br />　大統領として当たり前の声を出すことが出来て安心しながら、ジャニス。<br />『そう言って頂けると、非常に報われる思いが致します、閣下』<br />　画面の中のクリストファ・アレンは実際に軽く息を吐きながら、答えてくる。<br />「幾つか確認させていただきたい点が御座いますけど、宜しいかしら」<br />　ブレーンを含め、自分自身も作成した質問事項を載せられたウィンドウを自端末で立ち上げる。<br />『ご随意に』<br /><br />　　　　・<br />　　　　・<br />　　　　・<br /><br />　大統領はクリスの言葉を受ける度に、実に多くの感情を伴わせた反応を返してきた。<br /><br />　正直、クリスとしてはそんな大統領の所作振る舞いはエテルナと言う大国の長であるにしては、不適切であるようにも感じられたが、個人としては全く、気分を害するところでは有り得なかった。<br />　実に、そんな大統領に対して強い好感を覚え始めている自分自身であることは自覚している。自分の隣で、時折補足を付け加えているキリオや、艦内全体にてこの会談を見守っている連中も同じ感想を抱いていることだろう。<br /><br />　大きく相槌を打ち、大口を開けて驚きを表し、その頭部を両の手で抱えて嘆き、時には笑い声まで立てる。<br /><br />　平時の際の大統領とはこんなものなのか――やや、人が悪いことを考えてしまうクリストファ・アレンでもあったが。<br /><br />『ふう――どうも、通信越しと言うのも快適じゃありませんね』<br />　質問の全てが終わったとも思えないが、大統領は些か演技的に手元の書類を集め纏めた。<br />「同感です」<br />　大統領が続ける言葉を半ば予測しながらクリス。<br />『アレン司令、エテルナ本星にいらしていただけませんか？　差し支えなければ、の話ですが。場合によっては私が自らそちらに伺っても宜しいのですが』<br />　大統領の背後に立っていた国防委員長が、露骨に体を揺るがせるのが目に入った。それはそうだろう――クリスは一瞬、そんな国防委員長に対して同情の念を抱いた。<br />「いえ、私が伺うべきだと思います」<br />『そうですか――その場合、こちらから船を出させてもらいましょうか？』<br />　フォーチュンで突然に降りられてきては堪らない、と言うところであろう。だが、クリスは敢えて言質を与える選択は回避した。<br />「――お心遣いは有り難いのですが、その点に関してはこちらも部下――達と話を行う時間を頂いて宜しいでしょうか？」<br />『勿論ですわ』<br />　にこやかに返してくる大統領の顔を眺め、もしかしたらとんでもなく食えない女史なのではないか、と言う疑念がクリスの心を過ぎる。<br /><br />　　　　・<br />　　　　・<br />　　　　・<br /><br />『私は反対です！』<br />　誰の発言かと思いきや、なんと指揮卓上のペット・ロボット（猫型）であった。有志の尽力により、マックスの玩具だったペット・ロボットを改良したものをアテナが遠隔操作をしているのである。そのアイカメラの捉えた映像、センサーの捉えた音などはリアルタイムでアテナへと転送されている。ちなみに、その見た目はネコそのもの――と言うよりはネコをモチーフにしたディフォルメ・マスコットに近い物ではあった。マックスの遊び相手となるか、艦橋の指揮卓上でゴロゴロしているのが通常であり、時には暇を持て余している人間の話し相手を務めることもあった。この時はたまたま、艦橋にその居場所を定めていた、と言う事だ。<br />　そんなアテナのコントロール下に置かれたネコは器用に直立を果たし、その両腕（前脚？）を大きく挙げながら、反意を示している。<br />「アテナ、お黙りなさい」<br />　アテネコ（名前）の頭をクリスはごりごりと撫でた。<br />『黙りません！　ロードをみすみす、得体の知れない地に一人で行かせるなど、到底承服できません！！』<br />「――得体の知れない地って……」<br />　腰に手を当て、右手を大きく振りながらのアテナの言葉に苦笑を禁じ得ないクリス。<br />「司令、それでもアテネコの言い分にも一理ありますよ――危険かも分かりませんし」<br />　ムラサメ艦長がその艦長席から声を落としてくる。<br />「いや、あそこまで大統領に言われて断るのは失礼だ。危険は承知の上だが、致し方あるまい」<br />「俺も一緒に行こう。それと何人か連れて行くか？」<br />　自分の胸を親指で強く示したキリオは、自分自身の随伴に関しては一歩も引かない構えのようだ。<br />「――いや、行くとしたら僕とキリオだけで充分だ。確かに、何かが起こらないと言う保障は無い――」<br />　前髪を撫で付けながら、クリス。<br />「私もご一緒――」<br />「ソフィ、君には残ってもらわないと困る。フォーチュンの指揮権を全て、君に一任する。何かがあったら、思うように行動してくれ」<br />　艦長の言葉に強引に割り込んだ。上級指揮官が三人も抜けるのは論外。<br />「そんな――」<br />　尚、言い募ろうとするソフィに対してクリスはその顔を強張らせた。<br />「もし――何かがあったら――エテルナの深海に潜るなり、アステロイド帯に篭もるなりしてくれ。三年間は問題ないだろう、この船であれば――状況が変わるのを待つのが一番の得策かとは思う」<br />「――分かりました」<br />　半ば、泣き出しそうなソフィの顔ではあった。<br />「整備班に連絡を。練習機のワイヴ７９号機に、大気圏突入ユニットの装着を行って貰う――」<br />「それと――」<br />　クリスは、アテネコの尻尾を二度、強く引いた。<br />『ロードッ――』<br />　主電源をカットされたアテネコは抗議の念を示しつつ、その場で完全に停止した。ふにゃあん――と最後に小さく鳴いて、その場で四肢を折り畳んで目を閉じた。<br />「――フローラに、ライト＝ブリンガのプロペラントを全て、抜いておくようにお願いしてくれ。機動が行えないように徹底してくれ、と。何をするか分からないからな、彼女は」<br /><br />　　　　・<br />　　　　・<br />　　　　・<br /><br />『お待たせしました、大統領閣下』<br />　待つことほんの数分、フォーチュンから通信が送られてきた。<br />「いえいえ、大した事ありませんわよ」<br />　事実、素早すぎる程の返答でもあったので、この大統領の返答は言葉通りの意味を持っている。その姿勢を戻しながら大統領は目前の書類の束をその脇へ追いやった。<br />『こちらの専用艇でエテルナ本星へと向かわせていただきたいと思いますが問題はありますか？』<br />「その専用艇は非武装でしょうか？」<br />　純粋に如何なる種類の艇なのかを知りたかった大統領であった。<br />『ええ。原形は航宙戦闘機ですが教習機と言う事で一切の武装はオミットされております』<br />　問題在りますか、とは付け加えなかったが、その表情が口以上に物を言っている。ジャニスはそんな相手を安心させるために小さく頷いてみせた。<br />「問題ありません。了解しました。念のため、こちらから護衛機をお出しさせていただきますが」<br />　国防委員長には彼等の単独でのエテルナ訪問を快く思っていない節が見えたが、ジャニスは彼等の意向に全面的に添うつもりでいた。それでも、護衛機を付けなくてはならないのは大前提ではあった。この申し出を蹴飛ばしてくれるなよ――と心から願いながらの大統領の言葉である。<br />『構いません。誘導に従えば宜しいのでしょう？』<br />　即答。<br /><br />「はい。航宙警察から三機、派遣させていただきますので、指示に従っていただければ幸いです――」<br /><br />　ジャニス・ハッシュポピー・シュバリエは一つ、大きな息を吐いてから言葉を続ける。<br />「――そして、これが重要なのですが……貴船フォーチュンはその宙域に留まっていただきたく思いますが宜しいでしょうか――」<br />『とは――？』<br />　彼のこの尋ね返しは、事情をおおよそ認識しておきながらの言葉であり、空々しい響きを併せ持っていた。ジャニスは目の前の男がただの軍人では無いことをいよいよ悟りつつあった。<br />「はい。正直申しまして、現段階で国民に無用の混乱を与えたく無いのが本音でして――」<br />　型通りの返答を返す。もっとも、それが一番事実に近い。<br />『心得ました。艦長に命じておきましょう』<br />　画面の中のクリストファ・アレンは軍帽の鍔に手を掛けつつ、頷いた。<br /><br />「感謝します、アレン司令」<br />『こちらこそ、大統領』<br />　通信越しでの会談はこれにて終了と言う雰囲気が両者の間を等しく流れ始める。先程からタイミングを窺っていた秘書官から差し出された一枚のメモを手に取ってその内容を確認したジャニスは。<br />「護衛機をこれより向かわせます。以降、パイロット・リーダーの――ええと――リヒャルト・ゾーン警部補の指示に従ってください」<br /><br />『はい。次はエテルナにてお目に掛かることになりますな。しばしの間だとは思いますが、ご機嫌よう、大統領閣下』<br /><br />「お待ち申し上げます」<br /><br /><br />　　　　・<br />　　　　・<br />　　　　・<br /><br />『それじゃあみんな、行ってくるよ。オミヤゲ、期待してろよ』<br />　ワイヴァーン７９号機（複座仕様）のコックピットに乗り込んだクリスが大きく手を振った。<br />『ご無事で――』<br />　音声だけのメッセージがムラサメ艦長から届けられた。<br />「ソフィ、後は宜しく。万が一の場合は、君の独断で行動して良いからな」<br />　馴れないパイロットスーツ着用のキリオの補助を行いながらクリス。副司令官こと、ヒムラ・キリオがその全部座席。総司令官クリストファ・アレン自らがワイヴァーンの手綱を握る。<br />『了解。キリオさん、司令を宜しくお願いします』<br />「お願いされよう、艦長。不良技師達の面倒、ビシッと見てやってくれよ」<br />『はい。分かりました。お二人とも、お気をつけて』<br />　名残は尽きないのだろうが、ソフィは自ら身を引いたようだ。<br /><br />「「ラージャ！」」<br /><br />　クリスとキリオの言葉が重なった。<br /><br />　　　　・<br />　　　　・<br />　　　　・<br /><br />『７９号機の以下のコール・サインはいかがいたしましょうか』<br />　メイン・オペレーターであるシャルロッテの声が７９号機の空気を震わせる。<br />「任せる。面倒だ。適当に考えておくれよシャリー」<br />　各種電子系のチェックを無駄無く行いながらクリス。<br />『Yahhhhnn…（りょーかいっす）、じゃあ月並みですけどANGEL01と言うことで』<br />　クリスとキリオは同時に吹き出した。<br />「どこが月並みなんだか…まあ、許す…いいよな？」<br />　振り返りながらキリオ。未だ、ヘルメットは装着していない。<br />「フォーチュン管制、了解した。以降、７９号機のコール・サインはANGEL01と確定――」<br />『Fortune favors the Braves!!（幸運の女神は勇者達に愛を向ける）』 <br />　サブ・オペレータのナナが張りを含んだ声を上げてくる。<br /><br />　電子系、操縦系、一切異常なし。FIRE CONTROL（火器管制）に纏わるチェックが無いとこれほどに楽だとは――クリスは一人、苦笑した。含み笑いの音が漏れたのか、教習生席のキリオが訝しげに振り返ってくる。なんでもない、と答えてから、クリスはキャノピ（風防）の密閉を実行する。<br />「クリス、オミヤゲ、待ってるからなあッ！！」<br />　閉じる間際、そんな肉声を飛ばしてきたのはフローラだった。二次装甲に覆われる寸前に、キリオとクリスは揃って親指を立てて示す。<br />「ようし！！　出撃する！！」<br />　クリスは宣言。<br />「――出撃じゃねえって」<br />　露骨に苦い笑い声と共に、キリオ。<br />「――すまん」<br /><br />　クリストファ・アレンは心から赤面した。<br /><br /><br />　　　◆　◆　◆<br /><br /><br />　同時刻、フォーチュンに向けて飛行中の『護衛部隊』――正式にはエテルナ航宙警察カハヤ署所属、特殊巡視機動部隊所属『ロンド』隊。<br /><br />『信じられますか、警部補殿――』<br />　クリストファ・アレンの搭乗する機体をエテルナ本星までエスコートせよ、と大統領直々の命令を受けたリヒャルト・ゾーン警部補に弱々しい言葉で訴えてきたのは部下の一人、ナグモ・イドリス巡査であった。<br />「信じるも何もない。目の前にあるのは幻では有り得ない。現実だ。それともお前、自分の愛機と何よりも自分の目を信じることができないのか？」<br />　腕は立つが、どうもその精神面にまだまだ甘さが残る――そう考えながら答える警部補であった。<br />『ですが、９００メートル近い船舶だなんて……しかもこれ、どうやら軍艦でしょう？』<br />　「ナグモ巡査、当て推量で物を言うな。我々に課せられた任務のことだけを考えろ」<br />　いい加減に癇に障り始めた警部補の言葉は冷たく、現実的だった。巡査は二の句を接がない。<br />『まあまあ、イドリスも、警部補も、落ち着いて。もっとフラットに行きましょうや』<br />　通信に割り込んできたのは最後の部下、リー・パルク巡査長だった。<br />『――フラットに……心掛けます』<br />　ナグモ巡査が素直な返答を行ってきた。<br />「まあ、俺も言い過ぎた。だが、任務は任務だ。リーが言うようにフラットにあたれ」<br />『『アイアイサー』』<br /><br /><br />　　　◆　◆　◆<br /><br /><br />「閣下、宜しいですか？」<br />　マニキュアを塗り直している大統領に対し、国防委員長アーサー・ラウンドが執務机の上に両の手を突いた。<br />「宜しくないわ――アタシ、忙しいの」<br />　マニキュアの『乗り』を慎重に眺めながら大統領。国防委員長はそんな返答を受け、見るからに萎んだものだった。<br />「――ごめんなさい。冗談よ。何、国防委員長？」<br />　冗談に聞こえない、と口に仕掛けたラウンド国防委員長であったが、無論口には出さない。<br />「SWAT（Special-Weapon-Attack-Team＝特殊火器装備部隊）の出動要請が出ていないようですが、これはどういったことでしょうか？」<br />　大統領はフン、と息を指に吹きかける。お気に入りのマニキュアではあるが、どうも速乾性は今一つ。<br />「聞いておりますか――大統領」<br />「聞いている。出動命令は出していない。それだけ」<br />　それだけを答えると大統領は右手にマニキュアを塗る作業を開始した。<br />「かのクリストファ・アレンがテロリストで無い、と断定する情報はありません。どうか、御一考を――閣下」<br />　大統領はその手を止めて。<br />「アーサー・ラウンド」<br />「はい」<br />「あなた、彼等の立場に立ってご覧なさい」<br />「？？？」<br />「わざわざ、安全地帯である母船からホイホイと降りて裸同然になることが出来て？」<br />　あなたは大統領になれそうにないわね――あわや、口にするところだった。<br /><br /><a name="more"></a>
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<title>第II光：『光臨』 第一章 驚天動地 - III</title>
<description> CAUTION…WARNING… いけない。ロード自らの命令を受けはしたが、到底承服できない。 いけない。 誰？ 何が――？ お前は誰だ。 駄目――いけない。    ・    ・    ・「手伝ってくれて、ありがと。助かったわ、ミラン――」 整備クレーンの上から右腕を出しながら床面のミランダに声を投げたフローラである。「いえ、手伝いって程じゃないですよ――それより」 手元の専用端末に、抜き取ったライト＝ブリンガのプロペラント（増漕）を整備ブロックへと収納する命令を打ち込みな...</description>
<dc:subject>第一章</dc:subject>
<dc:creator>光橋祐希</dc:creator>
<dc:date>2708-01-01T00:00:00+09:00</dc:date>
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<br />　CAUTION…WARNING…<br /><br />　いけない。ロード自らの命令を受けはしたが、到底承服できない。<br /><br />　いけない。<br /><br /><br />　誰？<br /><br /><br />　何が――？<br /><br />　お前は誰だ。<br /><br /><br />　駄目――いけない。<br /><br />　　　　・<br />　　　　・<br />　　　　・<br /><br />「手伝ってくれて、ありがと。助かったわ、ミラン――」<br />　整備クレーンの上から右腕を出しながら床面のミランダに声を投げたフローラである。<br />「いえ、手伝いって程じゃないですよ――それより」<br />　手元の専用端末に、抜き取ったライト＝ブリンガのプロペラント（増漕）を整備ブロックへと収納する命令を打ち込みながらミランダが声を続けた。<br />「――アテナが落ち着かないみたいなんですよね。……私、もうちょっと『彼女』の傍にいます。フローラさん、他にもやる事あるでしょう？」<br />「落ち着かない？　――んしょっ」<br />　数メートルの高みから、その長身を飛ばし降ろすフローラ。危なげは全く無い。<br />「司令の命令もあって、そのマスター電源を諸共に落としはしたのですが、彼女――眠ってくれていないみたいなんです」<br />　完全整備状態に置かれているＲＬの姿は両の腕を投げ出して項垂れているようには見える。フローラは一つ頷いてから、ミランダの肩に手を回した。<br />「分かった。じゃあ彼女はお願いね。私、一応のスクランブルに着くからさ」<br />　左腕に刻まれた『シルフィード（風の妖精）』を叩く。<br />「そちらには私は着かなくても良いですか？」<br />　同じ『シルフィード』の意匠をミランダは示し返した。フォーチュンにあって、このマークを腕に刻んでいる人間は五名しか存在しない。<br />「実戦は未だ、あなたには無理よ――勿論、そんな退っ引きならない状態にならないことを期待するけどね」<br />　最後に強くミランダの背中を叩き、フローラはその赤毛を大きく揺らして笑った。<br /><br />　　　　・<br />　　　　・<br />　　　　・<br /><br />「リンダさん、キリオさんのお見送りに行かなくても良かったのですか？」<br />　朔風館で食事を一人で摂っていたリンダ・フュッセルに対し、意外そうな顔付きで述べてきたハタナカ・ダイサクである。その両手に抱えられたプレートにはカツ丼の特大盛りが乗せられている。<br />「――見送り？　なんで？」<br />　同じくカツ丼――こちらは並盛り――を進めながら、リンダは質問者と等しい怪訝な表情で答える。<br />「――なんで……って言われるとこちらも困るんですが――」<br />　リンダと同じテーブルに腰を落ち着けながらダイサク。<br />「こっちは【メンテナ】の開発でテンヤワンヤだわよ。あんな宿六（ヤドロク）の心配をしている暇なんてありゃしない」<br />　どこか不機嫌そうに付け合わせの『たくあん』をボリボリと囓る。<br />「シム（シミュレーションの略）の結果はオーライが出たんでしょ――ヤオ判定」<br />　先に玄米茶を啜りながらダイサク。<br />「動いただけよ。忘れちゃ駄目。戦闘兵器なんだから」<br />「主任の【ver.α】とは全く別物なのですか？」<br />「――そうだね。コンセプトはほとんど同じ。ただ、キリオのはちょっとアタシから言わせると――なんというか、品が無いってゆうか――一緒にして欲しくは無いなぁ」<br />　当の本人が聞いたら大変に機嫌を害しそうなリンダの発言だ。いずれにせよ、ダイサクを始めとして、ほとんどの人間はリンダとキリオが自ら開発に当たっている【ライト＝ブリンガ】の『【team-α】版』とでも表現するべき機体についてのことは全くと言って良いほどに知らないのである。リーヌ航海中において『量産型航宙艦』のベース・プランを３パターンと、現行の主力航宙戦闘機【ワイヴァーン】の性能を越える機体の開発を終了していた彼等ではあったが。<br />　無論、その何（いず）れもが机上のプランに過ぎないことは述べるまでもない。搭載していたワイヴァーンの各部をバラして考察に当たると言うことまで彼等は行ったが、戦闘機をまるごと一つ、建造するような設備も資源まではさすがに『フォーチュン』には積まれているところでは無かったのである。<br /><br />　ちなみにダイサクに限らず、多くの人間にとって『各』ＲＬに関しては当事者達が気の向いた時に漏らす発言の断片から推測を行うことしか出来ないでいる。<br /><br /><br /><br />　ヒムラ主任の【ＲＬα（仮名）】は『護』が。<br /><br />　リンダ姐さんの【ライト＝メンテナ】は『攻』が。<br /><br />　コンセプトとして据えられているらしい――<br /><br /><br /><br />　今の所、スタッフ達が茫洋と認識している情報はこんな程度のモノに過ぎなかった。<br /><br />　そこまで厳しく秘匿を行っているという点に関して、表向きの理由は『部下達に迷惑を掛けたくない』と言う事をキリオもリンダも折に触れて言ってはいたのだが、それは正に表向きに過ぎないことは誰の目から見ても明らかなことであった。<br /><br />「――なんかさあ、二人とも単に意地になっちゃってるんだよな」<br />　ある日、『一杯呑み屋　～赤提灯〈改〉』で焼き鳥を摘みながらオリバーは相棒のチャーリィに言ったものだ。<br />「へえ――やっぱりエンジニアとしての、ってことかいな」<br />　熱燗を傾けながらチャーリィ。そんな二人の様子を店の親爺ことキムは微笑ましく眺めやっていた。マエダ・ユキノのプロデュースを受けた結果、人々が足繁く通ってくれるようになった。素晴らしいことだ――そんなささやかな幸せに浸りきっているキムの視界にノソリと現れたのが噂のリンダ・フュッセル女史であったことを当然、キムだけが知っている。オリバーとチャーリィにとっては死角もいいところだ。と言うより、背中を向けているのだから。<br />「特にリンダさんは完全に主任に対するライバル意識ブリバリって感じだよ」<br />「ふんふん」<br />　互いの湯呑みに熱燗を注いで相槌を打つチャーリィ。<br />「っつうかあの人って昔からそう言うところがあってさ――」<br /><br />　――おいおい、君達いい加減にした方が良いよ<br /><br /><br />　キムは心の中で滝の様な汗を噴出させた。噂の当人が彼等の真後ろにいるのである。露骨に注意を呼び掛けるのもどこか憚られ、キムは懊悩した。そんな親爺の胸中を知ることもなく、二人の会話は続く。リンダは彼等の後ろで微妙な微笑みを湛え続けていた。<br /><br />「でもリンダさんの場合、それはありそうだね」<br />「そうそう。本当にガキっぽいんだから――へぶちっ」<br /><br />　店の看板、文字通りの『赤提灯』によって二人がその背後から強襲を受けたことは述べるまでも。<br /><br />「看板を凶器にするのは止めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ――」<br />　キム・レクソールの悲痛な叫び声が。<br /><br /><br />　　　　・<br />　　　　・<br />　　　　・<br /><br />「指定宙域に感有り。通信を開くよ――キリオ」<br />「いちいち確認を取らなくても構わんよ」<br />　キリオは機外の様子をいささか神経質に眺めながら答える。今や７９号機の乗員であるこの二人組みは気密服を完全に着用していた。<br />「――キリオ、念の為にバイザーを下げろ。チューブの確認はこちらでも出来るけど、最後に目視で確認しておくのを忘れないで」<br />　自らのヘルメットから通信ケーブルを引き出して機体備え付けの通信ジャックに芯を慎重に差し込みながらクリス。<br />「了解――いやしかし、絶景かなぁ」<br />　視界のほとんどが漆黒の宇宙空間に締められている状況にキリオは溜息を吐いた。かく言う彼にとって、艦載機での飛行というのは初めての体験に他ならない――機動テストの名目で月面を滑るように飛んだ記憶はあったけれど。そんなキリオはクリスの言い付けを思い出しながら、自らのバイザーを閉じた。その逼塞感たるや相当なものではある。酸素を摂取できるだけ、と言うシステムでしかないのだから当然である。大昔の宇宙飛行士達の労苦はこの比ではなかっただろうが。<br />『こちら、『フォーチュン』発、７９号機。搭乗人員は申告の通り、クリストファ・アレンとヒムラ・キリオの二名であります』<br />　クリスの綺麗な声がキリオのメット内にも等しく響く。<br />『こちら、カハヤ署、特殊巡視機動部隊――通称『ロンド』隊であります』<br />　微かにブツブツと音を混ぜながら、それでもクリアな音声が飛び込んできた。<br />『了解――大統領から窺ったリヒャルト・ゾーン警部補であると推察いたしますが？』<br />『如何にも。リヒャルト・ゾーン、そしてその他二名二機にて貴機の護衛任務に当たらせていただきます』<br /><br />　　　　・<br />　　　　・<br />　　　　・<br /><br />　程なく合流を果たしたリヒャルト・ゾーン警部補が率いるロンド隊とワイヴァーン７９号機。もはや、キリオはその相手の機体の細部に至るまでを目視できていた。なかなか頑丈そうなフレームだ。今は収納されている翼は大気圏内での機動をも可能とする機体であることを示しているのだろう。<br /><br />　――いい仕事、してますなぁ<br /><br />　そんなエテルナ航宙警察の機体設計者に対してそんな労いの言葉を掛けたくなるキリオであった。大気圏内での機動と真空の宇宙空間での機動を両立させるのは簡単なことではない。なお大気圏突入用、並びに圏内機動用のユニットを装備しているこの７９号機（教習機）もまた、相手側からの熱い視線を受けている。<br /><br />　曰く、ミリタリーオタクのナグモ・イドリス巡査。<br />『すっげぇ……ホンモノの【ワイヴァーン】だ……』<br /><br />　武装はオミットされているものの、戦闘を前提に置いた機体の持つ力強さに震えに近い物を怯えながらの独り言。カラーリングが白とオレンジなのは教習機であるということだろう。事実、本来は単座で在るはずの機体だが、自分の目の前で静止している機体は複座であった。<br /><br /><br />『理想的な大気圏突入機動をこちらが算出させていただきましたが御一考願えますでしょうか？』<br />　データの諸元を同時に送付しながらのゾーン警部補の太い声が響く。クリスはそんなデータを一瞥。突入角度、突入速度、そして目的地までの燃料消費量を瞬時に計算。<br />『確認させていただきましたが、問題はありません。これで行きましょう』<br />　驚いたのはゾーン警部補だけではない。キリオは実は自らもその計算に当たっていたのだが、彼が『解』を捻り出すよりもクリスの結論を含んだ言葉は遙かに早かったのだ。<br />『早いですな、アレン殿――』<br />　焦りを含んだ苦笑を作りながら、警部補。<br />『タイミングに関してはそちらにお願いします』<br />　クリスは声のトーンを一切、変えないで答えた。<br />『了解しました。差し当たって、我々に付いてきてください。先頭に自分が――貴機の両翼に部下が付きますので』<br />　事務的な声に戻しながら、ゾーン警部補が。<br />『お手柔らかに』<br /><br />　　　　・<br />　　　　・<br />　　　　・<br /><br />『ところでお前さん、大気圏突入なんてやったことあるのか？』<br />　キリオが器用に前席からヘルメットごと振り向いてきた。<br />『無い』<br />　薄いスモークが掛けられたバイザーの中でクリストファ・アレンがどう言った表情を構成しているのかの見当は付きにくい。無論、キリオはその心臓を大きく跳ね上げた。<br />『ななななな――無いって――』<br />　両の腕をぶんぶんと振りながら、キリオ。<br />『シミュレーションを二回だけ、軍にいた時に行った。大丈夫だよ』<br />　人の悪いクリスは一つ、付け加えた。<br /><br />『泥船にのったつもりで安心したまえ、キリオ――』<br /><br /><br />『やだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ！！！！』<br /><br /><br />　ヒムラ・キリオの哀しい絶叫が響いた。<br /><br />　　　　・<br />　　　　・<br />　　　　・<br /><br />「機体状況、異常なし。突入準備完了」<br />　目まぐるしく変わる計器類に素早く目を走らせながら、クリス。<br />『確認。予定ではトリトン湾に降下する手筈になっております』<br />　トリトン湾という響きはクリスの脳内には刻まれてはいない。それを察してかゾーン警部補が言葉を付け加えてきた。<br />『――アルタミラの北西、約５４０キロと行ったところです』<br />「なるほど、楽しみですね」<br />　社交辞令を織り交ぜて返信を行っておきながら、クリストファは７９号機の大気圏突入専用装甲――通称『エア・サーファー』の展開命令を入力した。金属同士の擦過音がコックピットにも伝わってくる。<br />「おやおや、どうやら向こうさんはそのまんま突入するらしいね」<br />　前席でキリオが呟く。何か手伝うことがあれば良いのだろうが、自分の体以上に航宙機を操ることの出来るクリストファ・アレンと一緒とあっては彼が手伝えることは全く、存在しなかった。先程までは叫び声を上げたりもしていたが、もう戻ることもできない以上、彼としては腹を括るしかない現実があったこともある。<br />「冷却剤を巧みに纏うんじゃないのかな。多分」<br />　サーファーの展開を画面上と、そして確認を行える範囲で目視を行いながらのクリスの言葉だ。<br />「ふむ、確かにあの形状であれば考えられるな」<br />　クリスの観察眼の鋭さに脱帽するキリオ。<br /><br />『こちらの最終準備完了。一切問題なし』<br />　ゾーン警部補のヘルメット、右チャンネルからのクリストファ・アレンの返答だ。<br />「了解しました。それでは、しばしの間、お別れですね」<br />　護衛対象機における何かしらのパーツ――大気圏突入用の特別ユニットだろう――の変形はゾーンの両目にもしっかりと捉えられていた。<br />『まあ、十分後にでも』<br />　この時代にあって尚、大気圏突入時の無線の使用が不可能となる時間が存在する。ブラックアウトと呼ばれる現象であり、突入速度、角度によってその時間は当然、異なってはくるのだが、アレン氏が示してきた十分と言う時間は相当な余裕を意識したものだった。<br />「了解。ご無事をお祈りします――それではまた、後程」<br /><br />　　　　・<br />　　　　・<br />　　　　・<br /><br />『ふはあ、本当に碧（みどり）色なんだな、エテルナって』<br />　降下モーメントのカウントが三十秒を切った中で、キリオがそんな声を上げてくる。クリストファに念を押され、バイザーを完全に閉じた状態での発言だ。<br />『成分組成が地球の海とは異なっている、って聞いたことがあるな――』<br />　刻々と減っていく数字を眺めながらクリス。<br />『綺麗だ。みんなにも見せてやりたいな』<br />　ディスプレイの一面に広がるエテルナの『碧』を目の当たりにしたキリオは心からそう思ったものだった。<br />『録画しているよ。後で上映会だな、こりゃ』<br />『さすがは総司令、抜かりがありませんな』<br />『そういうこと――さあ、きちんと正面を向いておけよ、キリオ。そろそろ突入だ』<br />　ミシミシ、と何かが軋む音がコックピット内にも伝わってくる。キリオは大きく生唾を飲み込んで、その姿勢を正す。<br /><br />　電子音が一つ、軽快に鳴った。<br /><br />　管制端末表示に『大気圏突入』の赤文字が点灯。<br /><br /><br />『Gooooooood Morning, ETERNA！！』<br /><br />　キリオは大きく、そう叫んだ。<br /><a name="more"></a>
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<title>第II光：『光臨』 第一章 驚天動地 - IV</title>
<description>「閣下、そろそろ定刻ですね」 大統領官邸専属のウルトラ・スーパー・グレート・ワンダフル・デリシャス・メイド、マリーベル・リンス嬢が陶製の水差しをご主人様に示した。彼女のご主人様は女性で、このエテルナ共和自由国において、最大の権力をその手中に有する――大統領であった。「ありがと」 捧げ上げられた文字通りのシルバートレイ上の水差しを大統領は手に取った。今の彼女の体は必ずしも水分の補給を要求してはいなかったが、マリベルの心遣いに答える為の一連のアクションであった。「突入角度に依りま...</description>
<dc:subject>第一章</dc:subject>
<dc:creator>光橋祐希</dc:creator>
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<br />「閣下、そろそろ定刻ですね」<br />　大統領官邸専属のウルトラ・スーパー・グレート・ワンダフル・デリシャス・メイド、マリーベル・リンス嬢が陶製の水差しをご主人様に示した。彼女のご主人様は女性で、このエテルナ共和自由国において、最大の権力をその手中に有する――大統領であった。<br />「ありがと」<br />　捧げ上げられた文字通りのシルバートレイ上の水差しを大統領は手に取った。今の彼女の体は必ずしも水分の補給を要求してはいなかったが、マリベルの心遣いに答える為の一連のアクションであった。<br />「突入角度に依りましては到着時間に遅れが生じることもあります。閣下、どうかロビーにてお待ち下さい」<br />　国防副委員長、イム・ランザが仁王立ちを決め込んでいる大統領の背後から声を掛ける。<br />「いやよ」<br />　振り向きもしない大統領。その長髪がトリトン湾から上がってくる強風に煽られて大きく波を打つ。現在、彼女を含めたＳＰを含む数十名はアルパイン空港の第一滑走路脇の仮設テントに控えている。なお、大統領は仮設テントに設置された専用座席にて悠長に座を決め込むつもりにはなれず、テント外で仁王立ちを行っていた。<br />「……ここは風も強いですし、お体に触りはしますまいか、と副委員長は仰っているのではないですかな、シュバリエ公？」<br />　この慇懃無礼な物言いは大統領を除いた人間の懐に潮風を盛大に巻き入れた。これは副大統領こと、イアン・ハーフヒルの発言であり、白髪と等しい色となってしまった長い髭が印象強い男性である。何も知らない人間がこの光景を目の当たりにすれば、とてもジャニスの方の序列が上であるとはとても思えないだろう。下手を打てば、見るからに若い女性のジャニス・ハッシュポピーは副大統領にすらも見えないはずだ。<br />「ご老体には厳しいでありましょうな。構いません。私はここに留まります故、副大統領は『温室』へと戻られい」<br />　更に大統領が慇懃無礼にも到底及ばない毒舌を奮った。取り巻きにとり、これはネェル・ヨコハマ名物のヴァィンツル颪（おろし）に等しい。大統領と副大統領の仲が良好でないのは今に始まったことではなかったが、これはやや行き過ぎだ。その場の誰もがそう感じた。前大統領の所属していた『共民党』が一連の『リッテンバウム汚職事件』でエテルナ国民の不興を買ってからはや二ヶ月。大統領の罷免にまで及んだエテルナ史上最悪と呼ばれる汚職事件は国会に圧倒的議席数を有していた共民党の支持率をも激減させた。だが、それでも余勢を保っていたそんな共民党は辛うじて、息の掛かった数名を政府高官の位置に残すことが出来たものだった。イアン・ハーフヒル氏は副大統領と言う事もあって、事実上の共民党が最高権力者であった。<br />「おやおや、なかなか辛辣なお言葉――老体には堪えますなぁ」<br />　表面上は平静を装った副大統領だが、周囲の人間としてはそれこそ気が気ではない。<br />「大統領閣下がこの場に留まられて、卑賤の身が落ち着いていられましょうか」<br />　続いたこの言葉にも、ジャニス・シュバリエは答えない。ただ、滑走路脇で腕を組んで仁王立ちを続けていた。<br /><br />　大統領の黒髪を再度、潮風が大きく波打たせたその時だ。ＳＰの一人が静かな、だが確実な歩幅を守りながら大統領の下へと歩んできた。その片手には無線機が握られている。<br />　「閣下、ゾーン警部補より連絡。全機、大気圏の突入に成功――とのことです。ここ、アルパイン空港への到着はこれより七分後、との事です」<br /><br />「分かりました――」<br />　ＳＰの言葉に人知れず、その胸を撫で下ろしながら大統領は表面上は簡潔に答えた。そんな大統領の胸中をこの場で唯一、正確に察することが出来るマリベルはただ、静かにトレイを持ち上げる。この両者はプライベートにあっては友人と評しても差し支えない仲ではあるが、この段階でマリベルは彼女のご主人様の補佐を行うことは出来ない。<br />「ありがと」<br />　答えながら、大統領は再三、水差しの中身をグラスへと注ぎ、一気。<br /><br />　アポロンの光を直視して。その青空に向かって大きく腕を伸ばした。<br /><br /><br />　クリストファ・アレン。<br /><br />　会ってみたい。<br /><br />　彼は、本当に私の知っているクリスなのだろうか。<br /><br /><br /><br /><br /><br />　仮に違ったとしても、会ってみたい。どんな男だろう。<br /><br /><br /><br />　仮に知っているクリスだったら。<br /><br /><br />　私は、どうするべきだろう。<br /><br /><br />　　　　・<br />　　　　・<br />　　　　・<br /><br />『ほぉれ――キリオ、目を開けろ。綺麗だぞう』<br />　緊張感の一片も含まれない、のんびりとした声がヒムラ・キリオのヘルメットの中を木霊した。<br />『ああ、悪い――とんだ小心者だなぁ』<br />　自分が目を閉じていたことを看破されて、どうにも心不味いキリオではあった。強い振動と、何よりもエテルナの大地が正に燃えているように映るモニターを凝視するのは苦痛以外の何物でも無かったのである。付け加えれば、少しだけ気分が悪い。<br />『ほう――』<br />　けれど、キリオの目の前に広がっている光景はそれはそれは美しいものだった。ただ、全面的な美とは受け入れ難いのは自分が『地球人』である所以（ゆえん）であろうか。『海は青いもの』と言う認識が強いからだろう。が、そんな先入観を抜いてみれば、この淡い碧色の海を受け入れることもできよう。そんな認識を自分が持つに至るまで、それほどに長い時間を要とするとは思わないヒムラ・キリオではあった。<br />『ライダー、収納。主翼、並びに尾翼を展開――』<br />　クリスのそんな言葉からほとんど時間を置かずして各種大気圏内飛行用のパーツが物理的に展開されていく。<br />『あれ、そう言えば先程の航宙警察の連中は？』<br />　全周囲を大きく見渡しながら、キリオが尋ねてきた。<br />『あと十秒ほどで視界に入ってくるだろう。良かったな、先生。突入速度はどうやらワイヴァーンの圧勝らしいぞ』<br />『YEAH！！』<br />　バイザーを上げて、その笑顔が充分に刻まれた顔で振り向いてきながらキリオ。<br /><br />　クリストファ・アレンの予言通り、遅れてきた『ロンド隊』がその両主翼部から薄い煙を引きながら降下を行ってきた。<br />『こちらゾーン警部補。アレン殿、応答願います』<br />　非常に鮮明な通信がワイヴァーンのコックピットに響く。<br />『こちらアレン。通信は良好です――オーヴァ』<br />　そんな航宙警察の機体を望遠映像で熱心に眺めているキリオの後ろ姿に苦笑を覚え掛けながらのクリストファ・アレンの返信だ。<br />『いやはや、よもや当機が十秒以上も貴機より遅れるとは想定しておりませんで――』<br />　更に帰ってくるゾーン警部補の声はどこか沈んで聞こえる。クリスと全く同じ内容の通信を耳にしているキリオが前部座席で親指を大きく立てる。<br />『まあ、こちらはユニット・タイプですから――そちらの機体、名前は存じ上げませんけれど宇宙空間と大気圏内の機動を両立させているというのは非常に便利で宜しいですね』<br />　どこか、先刻キリオと交わした会話に等しいものとなってしまっているが、半ばの社交辞令でもあることではあり、クリストファは気にしていない。<br />『はっはっは――お褒めいただいてありがとうございます、アレン殿。なお、当機の名称は【シュベルト】と申します』<br />　クリスはその眉根を寄せた。ドイツ語の造詣は深くはないが、知識の範疇にある単語だ。<br />『シュベルト――『剣』と言うことですか。それとも大シュバリエに引っ掛けられているのでしょうか？』<br />『どうでしょうね…無学で申し訳ありませんが、私はそこまでは知りません――と、それどころではありませんな。ええと――』<br />　思わず任務外の会話を行ってしまっていたことに今更ながら気付いたゾーン警部補と言うところだろうか。クリスは声を立てず、苦笑した。<br />『先鋒を部下の一人が取ります。前面に出た機体に着いて行って下さい。私と他のもう一人が貴機の両翼を護衛させていただきますから』<br />『心得ました、ゾーン警部補』<br /><br /><br />　　　◆　◆　◆<br /><br /><br />「ねえ、なんで。なんで、飛行禁止なのよッ！？」<br />　マリーカ・フランシスはその細い指を空港職員の一人に強く突き付けた。<br />「相済みません――該当の航路は現在、政府によって堅く飛行を禁じられております故――」<br />　全く罪のない空港職員はその頭をカウンターで低く低く下げた。<br />「――政府政府……何だか臭うわね――もう良いわ、ありがとう」<br />　物騒な言葉を残した後で、そんな職員を精神的に解放したマリーカであった。<br /><br />「ねえ、マイケル――ちょっと本社に連絡を取って、今回のこの航路閉鎖の原因を探るように言っておいてくれない？」<br />　空港ロビーにおいて予期せぬ待ち時間を受ける事になってする事もなく、ただ喫煙を行っていた部下の一人の耳元にマリーカは囁いた。<br />「そんなに大袈裟なことですかねえ」<br />　明らかに乗り気でない部下、マイケル・バイエビッチのそんな態度は大変に苛立つものではあったが、マリーカは表情に上げるのはどうにか堪えることが出来た。<br />「いつも言っているでしょ。事件に関する嗅覚を研ぎ澄ましておきなさい、って」<br />　マイケルは吸い途中の煙草を分煙機を兼ねた吸い殻入れに放り込んだ。<br />「分かりました。ラルにお願いすれば良いですかね？」<br />　そんな話題に上がったラル・インパースの緊張感に欠ける柔和な表情を脳裏に浮かべながら、マリーカは一つ溜息。<br />「――そうね。つうか部署で残っているの、彼女だけだもんね」<br /><br />　如何にも億劫に立ち上がって、携帯電話を操作するマイケルの背中を眺めながら、マリーカは一人、呟いた。<br />「何か、あるんじゃないのかな――それは間違いないだろうけど」<br /><br />　エテルナ首都、アルタミラ最大手の新聞社『デイリー・アルタミラ』を支える熱血事件記者としてその名を知られる、マリーカ・フランシスであった。<br /><br /><br />　　　◆　◆　◆<br /><br />「あっ、あれがそうじゃない？」<br />　大統領がその左手でアポロンの光を遮断して空を見上げながら呟いた。<br />「――はい、間違いありません。先鋒と両翼に我が航宙警察のシュベルトが――その中央に構えるが件のアレン元大佐の機体であるかと」<br />　携帯望遠鏡に映る映像をそのまま、伝えてくる国防副委員長であった。だが、今や望遠鏡の補助に頼ることなく、肉眼で機影が確認できる。<br />「ワイヴァーンって言ったわよね」<br />　その目を細めながら大統領。<br />「はい。どうやら、教習機としてのカスタムを受けた機体ではないかと」<br />「理由は？」<br />　一歩を進み出た国防委員長の言葉に振り向く事はせず、その視点を対象に投げ続けた状態で大統領が簡潔な質問を行った。<br />「は。まずはその機体塗装ですね。黄色と白、と言うのは軍隊に置ける練習、教習機であると聞き及んでおりますし――」<br />　アーサー・ラウンドは先刻、情報局の職員から聞かされた言葉をそのまま続けた。<br />「――何よりも、単座であるはずのワイヴァーンが複座でありますから」<br />「まあ、そりゃあヒムラさんも来るって仰っていたからねえ」<br />　大統領としては国防委員長を殊更に凹ませるつもりは無かったのだが、国防委員長はどうにも言葉に詰まってしまったらしい。<br />「来るわね――」<br />　大統領はいよいよその視線を体ごと、一同へと向けた。<br /><br />「彼等に対して、失礼な無礼な行動は堅く禁止するわよ。国賓待遇で扱うように、と言った私の言葉に泥を付けないでね。その時はオトナゲ無く、ブチ切れさせて頂くからヨロシク」<br /><br />　薄く零れ落ちてくるアポロンの光をその全身に受け、腕を組んだ状態でエテルナの大地を力強く大地を踏み付けるそんな大統領の姿はマリベルにとっては正に『女神』として強く印象付けられた。<br /><br />　無論、そう感じたのはマリベルだけではなかったが。<br /><br /><br />　　　◆　◆　◆<br /><br /><br />「今、一瞬照明が暗くなったわよね？」<br />　フォーチュンの女帝、ソフィ・ムラサメはその横に控える副長、ベアトリイチェ・ノイマンに声を向けた。この両者は等しく、『盾』をその中央に据えられた軍帽を着用している。<br />「――艦長も気付かれましたか――調査します」<br />　艦長から言葉を受け取る前に、既にその指を端末上で踊らせている副長であった。そんな折り、オペレータ席で着信のチャイムが軽やかに鳴った。艦内通信。<br />「はいはーい、こっちら第一艦橋――」<br />　飲み物を片手のシャリーが気軽に通信を受ける様子を確認しながら、ソフィは副長の手元にその目線を落とし込んだ。ディスプレイに投影された艦内図の中、工房ブロックの一角が激しく明滅している様子は無理な姿勢で覗き込んでいるソフィの目でも確認できた。<br />「なにごと――」<br />　ソフィは自分の言葉を完結させることが出来なかった。<br />「艦長、ＲＬが現在機動中との事です！！」<br />　シャルロッテがコーヒーカップをひっくり返しながら即座にその答えを与えてくれた為である。<br /><br />「そんな、バカなッ！？」<br /><br />　ムラサメ艦長は両手を指揮卓に叩き付けるようにして直立。有り得ない。マスターの電源はクリストファ・アレン自らが切断を行ったのは確認している。<br />「ミランダから艦長に通信！」<br />　シャリーが再び、悲鳴に近い報告を行ってくる。<br />「オープンで構いません、反映させなさい！」<br />　だが、次の瞬間に艦橋を響いた声は正に悲鳴、そのもの。本来は美声の持ち主である、ミランダ・ルヴァトワのものであった。<br />『――艦長、ヤバイでっす。アテナは工房ブロックを破壊してもクリストファ・アレンを追い掛けるつもりみたいです！！』<br />「冗談じゃないわ――何とかしなさい！！」<br />　そんなソフィの返答に、シャリーが「ンな無茶な――」と呟き掛けたが、これはベアトリイチェの厳しい眼光によって止められた。ソフィ自身は無茶な要求を行っていることは百も承知しているので、気に掛けることはない。いや、そんな些末な事を気に掛けるどころでは断じて無かった。<br />『説得してますが――』<br />　ミランダのその声にかぶって、バックグラウンドで響くスコット・ロードマンの声が艦橋に飛び込んでくる。『君の総司令官は泣いているぞ～』とかなんとか。スコットが大真面目にやっているのか、それともこんな危機的状況にあっても尚、失われることのないユーモアのセンスをアピールしているのか。少なくとも、考察を行う時間は今は無い。そんなムラサメ艦長が艦橋をベアトリイチェに任せて自らが工房ブロックへと向かう決心を固めた時。<br /><br />『うっ――きゃあああああああああああああ』<br /><br />　激しい破壊音を混ぜながら、いよいよミランダの絶叫が轟いた。<br />「どうしたの、ミラン！？」<br />　艦橋を後に仕掛かっているソフィの代わりに、ベアトリイチェが声を飛ばす。<br /><br /><br />『あ、あ、ＲＬが自らの手でプロペラントを引きずり出してますっ！』<br /><br />　スコットやフローラの絶叫、悲鳴、そして何よりも嘆きが艦橋においても全く等しく、再現された。<br /><br /><a name="more"></a>
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<title>第II光：『光臨』 第一章 驚天動地 - V</title>
<description>「ふうん、なかなか格好良いわね――機能美、って言ったところなのかしらね？ 私達の『機体』とは設計思想が根本から異なっているからかしら」 ジャニス・シュバリエはその乱れる髪を両の手で軽く押さえながら、感想をそのまま口にした。「――同感です、大統領閣下」 国防委員長が続いて見せたが、これが追従であったのか、それとも彼が純粋に感じたものだったのかは不明。 今や、彼等の誇る【シュベルト】に三方を囲まれて、【ワイヴァーン】がエテルナの大地にその羽を休めていた。「大統領、御自らがお迎えに...</description>
<dc:subject>第一章</dc:subject>
<dc:creator>光橋祐希</dc:creator>
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<br />「ふうん、なかなか格好良いわね――機能美、って言ったところなのかしらね？　私達の『機体』とは設計思想が根本から異なっているからかしら」<br />　ジャニス・シュバリエはその乱れる髪を両の手で軽く押さえながら、感想をそのまま口にした。<br />「――同感です、大統領閣下」<br />　国防委員長が続いて見せたが、これが追従であったのか、それとも彼が純粋に感じたものだったのかは不明。<br /><br />　今や、彼等の誇る【シュベルト】に三方を囲まれて、【ワイヴァーン】がエテルナの大地にその羽を休めていた。<br /><br />「大統領、御自らがお迎えに上がるのは危険かと――」<br />　国防委員長から目で促され、副委員長が今にも泣き出しそうな顔で大統領に進言を行った。<br />「あなた方の気持ちは分からないでもないけれど、彼等が私を殺害するつもりだったら、とっくのとうに行っているのではなくて？」<br />　実はジャニスは今少し厳しい言葉を投げ付けるつもりだったのだが、先刻より彼等に対しては些か棘を含む言葉を提供し続けていることに気付いたこともあり、彼女としては『ソフト』な発言となってしまった。<br />「それはそうですが、それでも――仮にも一国の元首ともあろうお方が――」<br />　脂汗を垂らしている国防副委員長には悪かったが、いよいよジャニスは棘を放った。<br /><br />「SHUT-UP（お黙り）！！」<br /><br /><br />　　　◆　◆　◆<br /><br /><br />　いよいよ、ライト＝ブリンガは自身を拘束していた整備台を砕きながら、工房ブロック内で立ち上がった。トラクタ・ビームによる熱風が盛大にブロックの中を吹き荒れる中、ミランダは周囲の人間に気密服の装備を命令した。<br />「ミラン、君も――」<br />　マグネット歩行により、辛うじて自分の体をその場に留めつつ、スコットが声と腕を伸ばしてきた。<br />「私は構わない。アテナを止めるから――」<br /><br />「バカっ――」<br />　スコットの行為を無下にしながら、ミランダ・ルヴァトワは重い足を必死に持ち上げてＲＬの元へと向かう。熱風が彼女のブロンドを大いに巻き上げたが、どうと言うことはない。<br /><br />「アテナ、お願いだから話を聞いてッ！！」<br /><br />　こんなブロック内の荒れ方から鑑みるに、おそらくライト＝ブリンガ、アテナは最大出力（マキシマム）の機動を実行しているのだろう。増漕こと、プロペラントタンクを装備した今、『彼女』が恐れるものは何も無くなった筈だ。<br />　だが、それでも自分の絶叫虚しく、ライト＝ブリンガはその動きを留めはしなかった。あろうことか、その左腕を伸ばして――。<br /><br />「やめなさいっ！！！！」<br /><br />　先とは比較にもならない、尖った爆音を発することが出来たことに、他の誰よりもミランダ本人が驚いた。そして、なんと。ライト＝ブリンガのその動きが一瞬、停止したのだった。<br /><br />　――大丈夫、いける！<br /><br />　勝機を得たミランダが荒れ狂う熱風の中、自分の小さな体――とは言ってもここ半年で身長は10㎝も伸びたのだが――を前進させるのにはそれでも渾身の力を要とした。ライト＝ブリンガはその左腕を壁に掛けられた専用火器、【レーヴァティン】へと伸ばした状態で硬直している。そして。一瞬。ほんの一瞬だったが、確かにその右眼がミランダへと向けられたはずだ。<br /><br />「そのまんま、そのまんまよ――アテナッ！！」<br /><br />　もはや、呼吸を行うのもおぼつかない。背後からスコットの怒鳴り声が聞こえるが、ここで足を止めるわけには行かない。クリスと約束したんだ。約束。<br /><br />　だが、そんな切実なミランダの希望に反して、ライト＝ブリンガはその細い指でレーヴァティンの銃把を確実に握り込んだ。主機に接続されたことを認識したレーヴァティンがゆっくりと、その上腕部に巻き付いていって――そして、その右腕が向かう先は――。<br /><br />　鹿の角に模した、硬化プラスチック製の――<br /><br />「うわああああああああああん！！」<br /><br />　ミランダは、腰部に備えられていた工具ドリルを引き抜いた。もう、自分が何をやっているのか分からない。涙と鼻水を多いに垂らしていることで、ただならぬことを行おうとしている自分自身にようやく、気付くことができた。<br /><br />「そ、それ以上やったら、クリスとの約束が守れない、守れないのよう――死んじゃう、死んじゃうからね、あたし――そんなことになったらーーーーーーっ！！」<br /><br />　絶叫しながら、ミランダは自分の右手に構えられたドリルの電源を入れた。重い振動が伝わってくるのを感じながら、ミランダはそんな尖端を自分のこめかみに向けた。<br /><br />「それ以上やったら、死んでやるから！　アテナ、あたしが死んじゃうのよっ！！　それで良いのッ！？」<br /><br />　ライト＝ブリンガの動きがいよいよ、停止した。<br /><br />　実剣である【妖刀ムラサメ】に向けられた腕を止めながら、だが。ライト＝ブリンガはその顔をゆっくりと、足元のミランダに向けた。鼻水と涙に顔面の全ての所有権を明け渡したミランダ・ルヴァトワに。<br /><br /><br />　　　◆　◆　◆<br /><br /><br />「さあ、降りようぜキリオ」<br />　六点からなるベルト――拘束具――を大仰な動作で抜きながら、クリスは言った。エテルナとは言え、完全武装を施された特殊部隊にでも囲まれることを想定していたクリスとしては甚だ微妙な空気ではあったが、こと、此処に及んでは考えを巡らせるだけ無為である、と達観していたのかもしれない。<br />「なぁ――二人同時に降りるのはマズかねぇかな？」<br />　前席のキリオがそんなことを言ってきて、クリスは多いに感嘆した。どうしてなかなか。危機管理能力に磨きが掛かっているじゃないか、と。<br />「いざとなったら最初に殺してあげるよ、キリオ」<br />　クリスはあくまでも軽い口調で言いながら胸元のスペース・イーグルを叩いたつもりだった。<br />「――痛くしないでね」<br />　と言うキリオの返答は、この場で撃ちたくなる衝動を喚起してくれたけれど。<br /><br />「――それはさておいて。まあ、虜囚とするんだったら、とっくにやっているさ、彼等は」<br /><br />　自分の言葉が、実は時を同じくしての大統領の発言とほとんど同意であったことを、クリストファ・アレンはまだ知らなかった。<br /><br />「開けるぞ。バイザー、まだ開けちゃ駄目だよ」<br />　キリオに気を遣った言葉を与えながら、クリスは宣言を行った。その親指が『全風防開口』のボタンを押し込んだ。なお、バイザーの開口を禁じたのは、急激な気圧の変化に備えるための措置であった。下手をすれば、鼓膜を損傷する可能性がある。<br /><br />　鈍い音をその内外に漏らしながら、ワイヴァーンのキャノピーがゆっくりと開く。風防が開いたその瞬間、自分の体が天上に引っ張られる感覚が間違いなく存在したことに気付いて、キリオは苦笑。実は、息苦しいバイザー越しの呼吸から一刻も早く逃れたい、と言うのがその本音であったからだ。<br /><br />『メット内の表示が緑色の点灯になったらバイザーを開けて大丈夫だから』<br />　もはやただの技術者ではないヒムラ・キリオにそこまで説明する必要があったのかどうかは分からなかったが。<br /><br />　――おやおや、女王様、御自らのお出ましとは<br /><br />　キャノピーの向こう側――つまり滑走路の直上において、数名のスーツ姿を従えた長身の女性の姿をクリスは確認することができた。赤で統一されたそのスーツはいかにも、活発的な印象を与えてくれる。大統領閣下に間違いない。<br /><br />　気圧調整が滞り無く終了したことを知り、クリスは自らのヘルメットに解除命令を入力した。アタッチメントが稼働して、ヘルメットが首後ろへと内臓モーターの稼働によって跳ね上げられた。その刹那、クリストファのまとめられていない長髪をエテルナの風が強く洗った。<br />「うっ――」<br />　これまでの混合酸素の無機質な香り、味わいとは比較にもならない萌え立つ緑の香りの流入に、クリスは思わず呻き声を漏らしてしまった。<br />「自然の空気はやはり良いなあ」<br />　クリスと等しいタイミングでバイザーを開けていたのだろう。キリオは両の腕を大きく振り翳しながら深呼吸を繰り返していた。<br />「ちょっとキツイがね――」<br />　咽せ返りそうになる気管支をどうにか落ち着かせながらのクリスの一言であった。<br />「そおか？」<br />　そんなクリスの弱音を意外そうに受け止め、後部座席に振り返ったキリオはだが、信じられない光景を目の当たりにすることになった。<br /><br />　口元に左手を宛った状態で、その全身を戦慄（わなな）かせながら、彼の司令官は。<br /><br />　クリストファ・アレンは大粒の涙を流していたのである。<br /><br />　おい――キリオは声を飛ばし掛けたが、理性に依らない何かがそんな言葉を呑み込ませた。<br /><br />「なんだ――どうして――これは――」<br />　虚ろに呟きながら、クリストファ・アレンはその手の平を眺めていた。どうやら、本人にとってもその涙の理由は不明であるらしかった。自身の手の平を叩き続ける水滴を忌々しげに睨み付けながら、聞き取ることのできない独り言を言っている。<br /><br />「クリス、気持ちは分からんでもないが――ホレ、大統領が来たぞ」<br />　そんな総司令官の気持ちを理解できる筈も無かったが、キリオは総司令官、いや――友人――に対してそんな言葉しか投げられなかった。ナイスバディなご婦人が（キリオ主観）そのピンヒールを打ち鳴らしながらこちらに向かって来ているのは事実でもあったし。<br /><br />「あ――ああっ、すまない――」<br />　我を取り戻したのか、クリスは気密服の胸ポケットから取り出した手拭いでその顔面を些か乱暴に拭った。どうにか、涙の流出を堰き止めることができたらしい。<br /><br />　当の本人よりも安心して、キリオはステップの展開命令を直接、副操縦士席から打ち込んだ。機首側面、つまりコックピット部分の装甲が変形し、軟質ゴム製の梯子が降ろされていく。<br /><br />「んじゃ――まあ、オイラから、な」<br />　クリストファの承諾を得るよりも先に、キリオはその体を半ば投げ出しながら梯子に掛かった。軟質ゴムとは聞いていたものの、なかなかどうして。縄梯子の類に比べれば、この安定感は比較にもならない。実体験を以てその有効性を認識しながら、キリオは自らの体をゆっくりと、慎重に地面へと向けた。<br /><br />　ヒムラ・キリオの二の足がエテルナの大地を踏んだ。<br /><br />　感動に近い衝動が自らの内に沸き起こることを想定していたキリオだったが、特にこれといった感慨は無かった。『ああ、エテルナの地面だ』と言う、シンプルな構文で終わってしまう程度の感想。<br /><br />『なんつーか、もっとこう……ズガーン、ヒシッ、ウォーッ、みたいな感動があって然（しか）るべきなんだろうなあ――』<br /><br />　そんなことを考えていたキリオだったのだが。<br /><br />「あぶなーーーーい！！」<br /><br />　突然、そんな自分の聴覚を強く刺激してきた声が、誰のものであるのか判断は付かなかった。どうやら、ナイスバディな件の大統領閣下の絶叫だったのか。<br /><br />　ゴチン。<br /><br />　何の音だ、と思った時は既に遅し。<br /><br />　キリオは、自分の目の前に正に『星』が散るのを認識した。<br /><br />　意識が消え掛かる。いや――消失した。<br /><br /><br />　果たして。ジャニス・シュバリエとその側近の目前で、意識を失ったヒムラ・キリオを懸命に介護するクリストファ・アレンと言う、シュールな場面が展開されることになった。<br /><br />　クリストファ・アレンがその足を踏み外してしまい、抱えていたヘルメットがヒムラ・キリオの脳天に直撃を果たしてしまったためである。<br /><br /><br />　　　◆　◆　◆<br /><br /><br />　――自分は、何をしてしまったのだろう。<br /><br />　崩れ落ちた整備台、そしていつの間にか装着されている【レーヴァティン】を確認して、アテナは愕然とした。<br />　その瞬間、大泣きを行っているミランダ・ルヴァトワの行状――工具ドリルを自らのこめかみに突きつけている――に気付いて、アテナはいよいよ驚愕した。<br /><br />『――ミラン、危ないですよ、止めてください！！』<br /><br />　言語野を刺激する前に、そんな言葉が『口』をついた。<br /><br />　何が起こったのか、定かではない。だが、ミランダがその危険極まる動作を解除してくれたことには『心』から安心した。<br />「アテナ、もう大丈夫なのッ！？」<br />　ドリルの電源を切りながら、ミランダがその声を張り上げてきた。張り上げる必要もないだろうに、と感じたアテナだったが、自らの『肉体』が最大出力に依る機動を実行していることに気付き、慌ててその出力を絞り込んだ。<br /><br />『申し訳ありません。些か、自分を見失っていたようで――』<br /><br />　――自分は、本当に何をしていたのか――アテナは再々度、愕然とした。<br /><br />　未だブロック内を荒れる風の中、ミランダは腰部に固定されているワイヤー・ガンをライト＝ブリンガの頭部アンテナへと飛ばした。狙い違わず、二本のワイヤーが通信アンテナの一つを確実に絡み取った。<br />『――ミランダ？』<br />　察したアテナが、出力を完全に絞り込んだ左手の平をミランダの足元へと向けてきた。<br />「ありがと、アテナ」<br />　固定したばかりのワイヤーの解除を行って、ミランダは自分の体をライト＝ブリンガの大きな左手へと飛び乗せた。<br />『何かご用でしょうか？』<br />　ゆっくりとミランダを持ち上げながらライト＝ブリンガがその頭上から声を落としてくる。<br />「ごめんね。私が一緒にいるから、落ち着きましょうね、アテナ」<br />　親指の関節を撫で付けながら、ミランダ。<br /><br />『――ありがとう、ミラン』<br /><br />　何故、お礼の言葉が口をついたのかは分からない。だが、『彼女』の中に、不可思議な感情（？）が芽生えているのは間違いのないところであった。<br /><br />　――得体の知れないものに対するこの感覚は、人間で言う『恐怖』にあたるのだろうか？<br /><br />　ミランダをコックピットへと迎えたらまず、自分自身の全てをスキャニングする必要があるだろう。一体、『私』の中には何が。<br /><br />　アテナは、『恐怖』した。<br /><br />　そして、自分の周囲に群がり始めたスコット達が大慌てとなっている様子を見せているのに気付いて、ひどく申し訳のない気分へと至るのだった。<br /><br />　　　　・<br />　　　　・<br />　　　　・<br /><br />「大丈夫か、キリオ――」<br />「むぅーん」<br />　エテルナの大地への不本意な接吻を強要されたキリオはだが、直ぐにその意識を取り戻すことができた。<br />「ああー、良かった……」<br />　キリオの上半身を抱えてその顔を覗き込んでいたクリスが、大きく安堵の息を吐いた。<br />「一体、何が――」<br />　自分の後頭部――コブができている――を触りながら、キリオ。<br />「すまない。僕のウッカリミスでヘルメットが直撃したんだ」<br />　その顔を翳らせながら答えたクリストファだったが、その直後に別の声が乱入してきた。<br />「大丈夫ですか――医務室へお運びすることもできますが？」<br />　キリオはその顔を声の主へ向けた。ありゃりゃ――大統領だ。<br />「いや、大事には至ってませんので――うっ」<br />　キリオは咄嗟にその顔を逸らした。最後の呻き声に大統領のみならず、クリスも慌てた。<br />「どうした、やっぱり痛むのか！？」<br />「違う違う。問題は無い――」<br />　クリスの腕を振り払うようにして、キリオは自らの体を起こした。ゆっくりと立ち上がって、体の隅々に付着した砂埃を落ち着いた動作で払ってみせる。<br />「そうか――」<br />　気まずそうに、クリス。<br />「いや、本当に問題ないって」<br />　後で、彼にだけはコッソリと伝えておこう――キリオはそう考えた。大統領の下着（紫）がモロに見えただなんて、この場で発言するわけには断じていかなかった。<br /><br />「とんだ初対面になりました――大統領閣下、失礼を致しました」<br />　キリオがその姿勢を正しながら、恭しく述べ上げたことで、その場の全員が本来の目的を思い出すことができた。<br />「こちらこそ。ご足労をお掛けして、申し訳ありませんでした――ヒムラ・キリオさんでいらっしゃいますな？」<br />　麗しの紫――もとい、自分とほとんど変わらない高い身長を持つ大統領閣下はその首を微かに傾げながら、暖かい声で応じてくる。<br />「ヒムラ・キリオです。生憎と移民許可証を所有しておりませんが、どうかお手柔らかにお願いします」<br />　そんなキリオの発言に、大統領は大きく笑ったが、その側近達の中で等しい笑いを続ける者が誰もいないことにキリオは気付いた。<br />「そうですねえ――あなた達、エテルナ有史上初の『不法入国者』になるのかもしれませんねえ」<br />　そう言って、大統領は更に大きく快活な笑い声を続けた。笑うところであるようだったので、クリストファとキリオは等しく、笑いで続く。<br />「失礼――して、あなたが――クリストファ・アレンさんですね……」<br />　自力でどうにか笑い声を収めながら、大統領がその姿勢を戻しながら質問を再開した。もっとも、質問と言うよりは断定に近い。<br />「左様です。クリストファ・アレンです。先刻はお世話になりました――お会いできて、光栄です、閣下――」<br />　そうしてクリスはその右腕を伸ばし掛けたのだが、途中で引っ込めることになった。エテルナで握手の習慣があるのか未明だったことが一つ。そして、自分が未だに気密服着用であり、そのグローブ越しでの握手は非礼に当たるのではないか、と思い至った為だ。<br />「こちらこそ光栄ですわ、アレンさん――」<br />　クリスのそんな逡巡を看破してか、大統領は歩み寄ってくるとまず、キリオの両腕を手に取った。<br />「気密服着用で――恐縮です」<br />　半ば、強引に取られた両手を引くわけにも行かず、キリオはグローブ越しに伝わってくる大統領の肉感を感じさせて貰った。<br />「今まで、何かと大変だったかと存じます――これからが楽になるかどうかは定かではありませんが、どうかひとまず、ご安心なさって下さい。シュバリエの名に掛けて、あなた方を手厚くお迎えさせていただきます」<br />　その両手を強く強く、握り込んでくる大統領。その目には真摯と言う言葉以外での表現が敵わない程に強い意志が込められていた。<br />「ありがとう、大統領――」<br />　目頭が熱くなりかけるのを認識しながら、ヒムラ・キリオ。<br />「――部下達……いえ、みんなも喜ぶことでしょう――」<br />　対抗でき得る限りの光をその双眸に乗せて、キリオは大統領の暖かい――グローブ越しで体温が伝わる瀬は無いけれど――両手を握り返した。大統領は名残惜しそうな様子を隠そうともせず、その手をゆっくりと振り解いて、いよいよ隣のクリストファ・アレンに顔を向けた。心臓の鼓動がこれ以上なく、強まっている――他の人間にも聞こえているのではないか、と言う程に。<br />「クリストファ・アレン――」<br />　その顔を良く見せておくれ――そんな言葉をどうにか呑み込みながら、大統領はその前に体を運んだ。名前を呼んだきり、言葉を続けようとしないそんな大統領の様子を怪訝に感じざるを得ないクリスだった。人の心を読むことはできないのだから。<br />「如何にも、クリストファ・アレンです――お会いできて光栄です、大統領」<br />　ささやかな疑問を裁ち切りながら、クリスはその右手を差し出した。<br />「こちらこそ……」<br />　クリスの右手を両手で包むようにしながら、大統領が小さく呟いた。<br />「宜しくお願いします」<br />　大統領の剥き出しの両手で包まれた自分の右手に、クリスは左手を乗せた。<br /><br />　――しかし、なんと背の高いご婦人なのだろうか。フォーチュン一の大男、リョウ・ターミナと良い勝負かもしれない。しかし、なんでこの大統領は震えているのだろうか？<br /><br />　クリスは、眼前の大統領を見上げながらそんなことを考えていた。<br /><br />　片やのジャニス・シュバリエ・ハッシュポピーはいよいよ、確信していた。<br /><br /><br />　彼の肉声。肌の色。髪の毛の艶。吸い込まれそうな薄い茶色の瞳。<br /><br />　彼女の手元に揃えられたデータのことごとくが、『否』を示している状況があった。<br /><br />　だが。<br /><br />　『私の知っている、クリストファ・アレンに間違いない！！』<br /><br />　生物としての人間が所有して然るべき、『本能』――他に言葉は見当たらない。それでも、ジャニスは確信した。<br /><br /><br /><br />　大統領は自分よりは遙かに小柄な青年、クリストファ・アレンの体を軽く揺すって。<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />「――おかえりなさい」<br /><br /><a name="more"></a>
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<title>第II光：『光臨』 第一章 驚天動地 - VI</title>
<description>「――ただいま……ってのも変な感じですが」 胸元のファスナーに手を置きながら、クリスは苦く笑った。「――まあ、こちらは風もあって快適ではないでしょう。特別室を用意しておりますから、そちらでお話ししましょう」 心無しか、その表情に陰を含ませながら大統領が提案を行って、控えていたＳＰの幾名かに指示を出すためにその背中をこちらに向けた。「ええ――」 大統領本人が既に確認できるところではなかったが、小さく頷いたクリスが後ろ隣のキリオに視線を飛ばすと、予想通り、困惑に満ちた表情を浮かべ...</description>
<dc:subject>第一章</dc:subject>
<dc:creator>光橋祐希</dc:creator>
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<br />「――ただいま……ってのも変な感じですが」<br />　胸元のファスナーに手を置きながら、クリスは苦く笑った。<br />「――まあ、こちらは風もあって快適ではないでしょう。特別室を用意しておりますから、そちらでお話ししましょう」<br />　心無しか、その表情に陰を含ませながら大統領が提案を行って、控えていたＳＰの幾名かに指示を出すためにその背中をこちらに向けた。<br />「ええ――」<br />　大統領本人が既に確認できるところではなかったが、小さく頷いたクリスが後ろ隣のキリオに視線を飛ばすと、予想通り、困惑に満ちた表情を浮かべていた。恐らく、自分もそんな顔になっているのだろう、とクリスは悟ることができた。『おかえりなさい』と言う言葉の用法が自分達のそれと大きく異なるとも思えなかったからだ。<br />「――失礼ですが、武器の類はお持ちでしょうか？」<br />　大統領が指示を飛ばしている間、ＳＰの一人がそんな言葉を投げ掛けてきた。<br />「ええ、私が一挺、拳銃を所有しております――」<br />